具体的には、「筋緊張」と呼吸パターンをリアルタイムで測定します。たとえば、肩の痛みを記録するには、医師や理学療法士、研究者が使うEMG(筋電計)装置の小さなセンサーをさまざまな筋肉上の皮膚に貼りつけて、筋緊張の状態を測定します。これは痛みや出血をともなわないものです〔針を筋肉に刺す方法もありますが、ここでは皮膚に貼りつけるだけで筋緊張を測定する表面筋電計「sEMG」のこと〕。この装置を使って現状の筋肉の反応を記録しておき、あとで従業員に働き方を変えてもらった場合の筋肉の反応と比較検討します。

 筋電計で筋肉を測定することで、被験者がコンピュータでさまざまなタスク(作業)をおこなう際に、筋肉がどう反応するかをグラフに示して視覚的に説明できます。被験者がどう反応するかを、1秒ごとにコンピュータの画面上で確認でき、筋肉が使われていないと緊張のレベルはゼロと記録されます。

 次に、筋肉がどれくらい緊張しているか、緊張状態はどれくらいつづくかを調べます。こうした実験から、筋緊張状態が長すぎると何らかの症状が起こりやすいことがわかりました。コンピュータを使った仕事、とくにオフィス用スチール机やワークステーション〔デスクトップパソコンが置かれた作業スペース〕では、ほとんどの人が一日の大半を、慢性的な軽度の緊張状態で過ごします。また、浅くて速い呼吸は、データ入力のような集中力を必要とする細かい作業時に典型的なものです(図を参照)。

データ入力中やタイピング中は、意識しないうちに筋肉の緊張や呼吸数が増加することが多いデータ入力中やタイピング中は、意識しないうちに筋肉の緊張や呼吸数が増加することが多い 筋電図提供:エリック・ペパー 拡大画像表示

 これらのパターンに、オフィス内での人間関係上でのかけ引きや、仕事への不安による心理的なプレッシャーがともなうと、緊張レベルが上がり、疲労・炎症・痛み・外傷のリスクが高まります。そしてほとんどの場合、緊張が外傷の要因となったことを、人々はまったく認識していないのです。

 筋緊張がどれくらいつづくと、長すぎることになるのか?これは人によって違い、速筋(そっきん、瞬発的に大きな力を出す筋肉。「秒」~「分」単位で疲れが出る)が多い人もいれば、遅筋(ちきん、持久力を発揮する筋肉。「分」~「時」単位で疲れが出る)が多い人もいます。これも筋肉の外傷を発症する人としない人の違いです。

 我々が相談を受けたとき、肩の筋肉の緊張度を測定するだけで誰が筋肉の外傷を起こしやすいかを予測できますが、必ずしも筋緊張の程度だけで予測するものではありません。むしろ、一日のなかで定期的な小休止(筋肉を意図的にゆるめる)がないことが、将来、筋外傷を起こすことと相関があるようです。