海外投資への失敗を経て
健康関連企業への自己変革

 しかし、海外でビールや飲料事業の成長を目指す戦略は行き詰まった。約3000億円で現地企業を買収したブラジル事業は、景気低迷や競争激化によって収益が悪化したため、売却した。

 21年2月にはミャンマーでクーデターが発生。キリンは国軍系企業との合弁を解消し、その上で事業継続を目指したものの協議は進展せず、撤退を余儀なくされた。中国の飲料水合弁事業も解消する。日本国内は、人口減少によって経済の縮小均衡が進む。ビールや飲料だけで成長を目指す経営は限界を迎えている。

 生き残りを目指してキリンは、業態を変換しようとしている。海外の飲料事業や政策保有株式などを売却し、得た資金を、医薬品や健康関連の事業に再配分している。

 業態変更の中核となる資産が、旧協和発酵(現、協和キリン)だ。協和キリンの売り上げ規模は、国内の飲料事業(キリンビバレッジ)を上回り、キリンにとって2番目に大きな事業に成長した。21年5月には、協和キリンの時価総額が親会社のキリンHDを上回った(現在は時価総額の親子逆転は解消)。

 協和キリンは腫瘍性骨軟化症の治療薬である「クリースビータ」など、希少疾患治療薬の開発ノウハウを持つ。キリンは、特定の疾患に特化した世界的な「スペシャリティー・ファーマ」として協和キリンを成長させ、自己変革を加速させようとしている。

 健康関連分野では、ファンケルと資本業務提携を結んだ。コロナ禍によって世界全体で健康への意識は大きく高まった。主要先進国での高齢化も人々の健康意識を押し上げる。

 キリンは「プラズマ乳酸菌」を用いたサプリメントなどの生産を強化し、「免疫の維持」という強い消費者ニーズのあるマーケットでも存在感を高めている。ビール・飲料事業の海外戦略が行き詰まった中で、成長期待の高い分野で新しい取り組みを増やすことは、事業体制の立て直しに欠かせない。