国内ビール事業はリストラの可能性も
問われる経営陣の本気度

 ただ、現時点でキリンの自己変革がどのような成果を生み出すかは不透明な部分もある。ビール・飲料メーカーから医薬品・健康関連企業への転換を目指すことによって、キリンの経営風土や従業員に求められる能力やスキルは激変する。ITシステムの整備のために、より多くの資金も必要になるだろう。業態の変更に経営陣が本気になって取り組み、組織の意識改革を徹底して行えるかがテーマになる。

 ワクチン開発に見られるように、世界全体で医療、医薬、健康に関するビジネスは急速に成長している。急激な環境変化によりよく対応する一例として、米ジョンソン・エンド・ジョンソンは、医薬品・医療機器事業と、「バンドエイド」などを扱う消費者向け事業で分社化し、意思決定スピードを引き上げる。

 それに対して、キリンはビール、飲料、医薬品など複数の事業を抱えている。協和キリンは上場子会社でもある。新薬を開発するには研究開発体制の強化に加え、有力な新薬候補を持つ企業の買収や、大手製薬企業との提携など、「経営体力」がものを言う。

 資産売却による資金の捻出や必要な人材の獲得、コスト削減などキリン経営陣が取り組むべきことは山積みだ。今後の展開によっては、国内ビール事業は生産体制の見直しやブランドの絞り込みなど、リストラも考えられる。

 世界でヘルスケア分野に参入する企業は、今後も増えるだろう。競争激化に対応するために、キリン経営陣は構造改革を加速させなければならない。医薬品や健康関連企業として成長するという明確な目標を組織全体で共有し、新薬や乳酸菌を用いた新製品の創出に集中することが不可欠だ。経営陣が覚悟を決めて改革を加速し、組織を一つにまとめられるかが問われている。