「『大国の備蓄』と『世界の穀物』を管理する政治的責任をしっかりと担い、より高いレベルで国家の食糧安全を保障しなければならない」――昨年12月28日、中国の国家食糧物資備蓄局は、重要な啓示としてこのような文章を発表した。

 年間1000万トンの小麦を輸入する中国だが、2021年1~7月、中国は前年比で45.9%増の625.3万トンの小麦を輸入した(中国税関)。その内訳はカナダ(199.3万トン、構成比31.9%)、米国(179.7万トン、28.7%)、オーストラリア(152.2万トン、24.3%)で、この3カ国で84.9%の割合を占める。

 オーストラリアが数量・金額ともに4割を占めていた2015年からは平準化された形だが、それでも中国からすればカナダ、オーストラリアは米国主導の中国包囲網に加担する油断のならない相手だ。近年の中国の学術論文では「政治的リスクが低い国からの輸入を優先的に増やすべきだ」という論調が目立つ。

 清華大学の中国農村研究院は、2020年に次のような論文を公開している。

「『一帯一路』構想の進展に伴い、中国のトウモロコシの輸入元は徐々に多元化し、米国などの既存の輸入国に加え、ウクライナ、ロシア、ブルガリア、ベトナムなどからの輸入が増加する可能性がある。カザフスタンなど中央アジア諸国からの小麦の輸入はさらに伸びるだろう。輸入の安定性と信頼性を向上させるためには、輸入元の多元化を促進し、単一国への依存を減らす必要がある」(葉興慶著「WTO加盟以後の中国農業の発展状況と戦略調整」)

 冒頭で触れた中露間の取り決めにより、今後、ロシア産の小麦が大々的に輸入できるようになるわけだが、これまではロシア産の小麦と大麦は、アルタイ地方、クラスノヤルスク市、チェリャビンスク州、オムスク州、ノボシビルスク州、アムール州、クルガン州の7地域からしか対中輸出ができなかった。

 黒竜江省はアムール州を対岸に望む黒竜江(アムール川)沿岸に位置し、極東ロシアの農産物貿易を担う拠点の一つだ。同省の有力メディア「東北網」は「2021年は5万5000トンの輸出にすぎなかったロシア産小麦は2022年から100万トンとなり、将来的にさらに増えるだろう」とするロシアの穀物輸出商団体のコメントを掲載した。

「単一国への依存減」という戦略は着実に実行されており、今後相当な割合がロシア産に置き換わる公算が大きい。