供給のボトルネックが深刻化
経済のグローバル化に大きな試練

 ウクライナ問題が世界経済に与える負の影響は長期化する可能性が高い。EUはロシア船籍船舶の域内入港の禁止を検討し始めた。ロシア向けの運行を止める海運企業も出ている。こうなると、世界経済の供給のボトルネックが深刻化する。

 景気減速と物価上昇の同時進行に直面する国が増える恐れがある。物価上昇に対する懸念の高まりを反映して、かなり荒い値動きを伴いつつ金利は上昇するだろう。先行き不透明感の高まりを背景に、米国をはじめ世界の株価もかなり不安定に推移せざるを得ない。

 今後の状況次第では、1998年のLTCMショック(米大手ヘッジファンドLTCMが実質破綻したことで起きた金融危機)のような世界的な金融危機が発生することも考えられる。特に、欧州の金融システムで何らかの危機が起きる可能性は排除できない。

 スイスでは、米アルケゴス・キャピタル・マネジメントとの取引で世界の金融機関が相次いで損失を計上した「アルケゴス問題」によって、クレディ・スイス・グループが多額の損失に直面した。仮にロシア金融機関の欧州部門の資金繰りが行き詰まるようなことがあれば、欧州の銀行システムにショックが伝播し、信用収縮が起きる可能性は否定できない。その場合、主要先進国でも社会と経済全体で閉塞感が高まり、政治基盤が不安定化するかもしれない。

 また、ロシアがどのような報復措置を繰り出すかも今後の世界情勢に大きく影響する。米欧が中銀制裁を発表した後、プーチン大統領は核戦力の態勢強化を命じた。欧米は制裁によってロシア国内でのウクライナ侵攻への批判が高まる展開を狙い、社会心理には相応のインパクトを与えた。

 その一方で、プーチン大統領がその地位を守るためには、西側からの圧力を跳ね返さなければならない。その手段として、同氏は、経済や金融面での報復よりも、軍事的圧力を一段と重視している可能性がある。

 今後の一つのシナリオとして、自由資本主義体制を取る国々とロシアおよびその親密国の関係はさらに悪化し、世界経済のブロック化が鮮明になる可能性は高い。第2次世界大戦後の世界経済を成長させたグローバル化が、大きな試練の時を迎えている。世界の経済と金融市場の不安定感は一段と高まるだろう。