高齢ドライバーの逆走や暴走は
運動機能の低下が原因ではない

 ペダルの踏み間違え以外にも、高齢ドライバーの起こす事故には、まれに逆走や暴走といった、明らかに不自然なものもあります。これらは、高齢による運転技能の低下によって引き起こされたものではけっしてありません。ほとんどが、薬による意識障害が原因ではないかと私は考えています。薬害と言ってもいいくらいでしょう。

 高齢者になると、複数の薬を常用している人が多くなります。また、高齢者は代謝も落ちていますから、薬の副作用が出やすいこともあります。それによって、低血糖や低血圧、低ナトリウム血症などで、意識障害を起こしやすいのです。

 暴走事故を起こした高齢ドライバーが、当時の状況を「よく覚えていない」などと言うことがありますが、これは明らかに意識障害を疑っていい証言です。今後は、薬を飲んでいる高齢者においては、意識障害を起こすリスクがあるのかどうかを慎重に判断して、運転を続けるかどうか決めることは必要かもしれません。

 しかし、繰り返しますが、高齢者が事故を起こす割合はけっして高くないのです。それなのに、年齢で一律に区切って、運転免許の更新において制約を課したり、高齢になれば免許は返納すべきといった風潮がつくられていることに私は憤りを感じています。

 運転免許を取り上げられることが、死活問題となる高齢者の人もたくさんいるのです。ご自身が運転をしたくないというのであれば話は別ですが、運転する必要性があり、それを希望しているのであれば、運転免許は返納などけっしてしてはいけません。運転からの引退は、老化を加速させる結果をもたらしてしまうからです。

 本書では、今回紹介しきれなかった、肉を食べる習慣が「老い」を遠ざける、運動習慣などの「老いを遅らせる70代の生活」、70代の人のかしこい医師の選び方などの「知らないと寿命を縮める70代の医療との付き合い方」、趣味を働いているうちにつくろう、高齢者の「うつ」の見分け方などの「退職、介護、死別、うつ……『70代の危機』を乗り越える」について紹介しています。