治療施設にもよるが、治療費用は1回当たりに約10万円かかるケースもある。日本においてAIDは保険の適用が認められておらず、数年間にわたる継続的な治療は患者にとって大きな経済的負担になっていた。

 一方、はらメディカルクリニックが今年4月から始めるのは第三者の提供精子を使った、IVF-D(非配偶者間体外受精)と呼ばれる治療法。体外で卵子と第三者の提供精子を受精させ、妊娠しやすい時期に受精卵を子宮に戻すという方法だ。宮崎氏はIVF-Dの妊娠率と実施の開始に対してこう話す。

「IVF-Dの妊娠率は約30%とAIDより高くなります。AID治療に携わった経験がある大勢の医師が『もしこれがIVF-Dなら妊娠も可能なのに』と悔しい思いをしてきましたし、私もその一人です。最前線の現場として、IVF-Dは以前から実施したかった治療法なのです」

 従来はAIDで妊娠できない場合、IVF-Dを求めて海外に行く患者も少なくなかった。だが、海外での治療は経済的な負担に加えて時間的な制約が大きく、仕事をしながらの治療は現実的ではない。この問題点を考慮すると、確かに日本でのIVF-Dの実施は患者の負担を軽減してくれるだろう。

精子提供者は
非匿名が基本

「実施の転機となったのは、2020年12月に提供配偶子で生まれた子どもは治療をした夫婦の実子であるという『親子関係を明確にする民法の特例に関する法律』が制定されたことです。それを受けて、2021年6月に日本産科婦人科学会が提案書を公表しました。これにより、提供精子にかかわらず提供卵子、いわゆる提供配偶子を使った医療体制を整えつつ容認する空気になってきました」

 ただし、状況は変わりつつあるものの、IVF-Dが一般に普及していくためには、いくつかの問題点も指摘されているという。