不妊治療の光と闇#3
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「不妊原因の半分は男性側」というWHO(世界保健機関)の大規模調査や、男性不妊分野の進歩もあり、女性を妊娠させることができる“良い”精子とは何か、その全容が少しずつ分かってきた。特集『不妊治療の光と闇』(全8回)の#3では、精子の質を上げる生活習慣、精子がない「無精子症」へのアプローチなど、男性不妊治療の最前線に迫る。(ダイヤモンド編集部 野村聖子)

泌尿器科への受診で
高額な不妊治療を回避できるケースも

「あなたの精子では、顕微授精するしか道はありません」

 Sさん(40代男性)は、妻と一緒に不妊検査を受けたクリニックで医師からそう告げられ、がくぜんとした。

 精液中における、奇形の精子の割合が、正常値よりもかなり高かったのだ。

 妊娠に至るには、まず男性の精子と女性の卵子が受精しなければならない。正常な形ではない精子は、うまく受精に至らない可能性が高いとされている。

 そのため、精液中から正常な形の精子を探し出し、注射針で卵子に注入する顕微授精を、医師に勧められたのだ。

 しかし、そのクリニックの顕微授精の値段は、なんと一式で100万円。

「いくら自然妊娠が難しいといわれても、100万円なんて簡単に出せる金額じゃない。何かやれることはないのだろうか」

 Sさんと妻が、知人に相談したり、インターネットで情報収集をしたところ、男性の精子の状態に詳しいのは、産婦人科領域をベースとしている従来の不妊治療施設ではなく、泌尿器科であることが分かった。

 そこでSさんと妻は、男性不妊専門の泌尿器科を受診。半年間「精子の質を上げる」ことを目的とした治療を受けたところ、やはり自然妊娠はしなかったが、人工授精(精液をチューブで女性の子宮内の奥に注入する)という方法を2度行った末に、妊娠。元気な赤ちゃんを授かった。

 人工授精は公的保険外だが、費用は数万円程度で、顕微授精の10分の1以下。男性不妊の治療を半年行った金額を上乗せしても、3分の1程度で済んだ。

「あのまま最初のクリニックで、勧められるままに治療していたら一体幾らかかっていたのかと思うと、寒気がする。男性不妊の専門医に相談して本当に良かった」と、Sさんは胸をなで下ろす。

 なぜ精子の状態が悪いのか、その根本的な原因は、不妊治療の主たるプレーヤーである多くの産婦人科医にとって、専門外の領域だ。

 男性不妊の患者を数多く治療してきた、泌尿器科医で横浜市立大学附属市民総合医療センター生殖医療センターの湯村寧准教授は「精子の状態が悪い根本的な原因を突き止め、それを治療することで、高額な生殖補助医療を回避できるケースも少なくない」と話す。

 さて、精子の質を上げるという男性不妊の治療とは、どのようなものだろうか。