IVF-Dにおける
2つの課題

 宮崎氏はIVF-Dが広がる上で、2つの課題を指摘する。その一つが精子バンクにおけるドナー数の問題だ。

「当院は今のところ独自の精子バンクを持っており、高い志を持ったドナーたちが精子を提供してくれています。しかし、それだけではどうしても数に限界があります。ドナーを増やすには、有志の提供者を募るため、情報の拡散力や影響力が求められます。だからこそ、国が主導で精子バンクを作る必要があると考えています」

 日本における生殖医療は、「営利目的でしてはならない」という考えが根底にある。民間の参入は難しいとなれば、精子バンクを国主導で立ち上げることは急務の課題と思われる。

「もう一つの課題は、近親婚の発生リスクです。同じ父親を持つIVF-Dで生まれた男女が知らずに出会って、結婚してしまうリスクもゼロではありません。1人の精子提供者から生まれてくる子どもの数はもちろん制限していますが、100%の予防策とは言い切れません」

 近親婚を避ける上で、精子提供者とIVF-Dにより生まれた子どもの追跡は付いて回る課題である。精子バンクを民間、かつ非営利目的で運営することの難しさを考えると、やはり国の力に頼らざるをえない。

「IVF-Dの実施は課題が多く、批判や慎重な意見が見られる一方、私たち医師の取り組みを支持してくれる人もいます。課題解決には多くの人が関心を持つことが重要です」

 今後、生殖医療の整備が入念になされ、不妊治療に関わる人々に良い変化がもたらされることを期待したい。

(監修/はらメディカルクリニック院長 宮崎 薫氏)

◎宮崎 薫(みやざき・かおる)
はらメディカルクリニック院長
医療法人社団暁慶会はらメディカルクリニック院長。2013年慶應義塾大学大学院医学研究科を修了後、2017年に渡米し、ノースウェスタン大学産婦人科の研究所教授を経験。荻窪病院産婦人科での勤務を経て現職に至る。産科婦人科の領域で生殖医療のほか、内分泌代謝科専門医、再生医療認定医など、多岐にわたる専門医を務める。