伝わるからと、普段から「あれ」「これ」ばかりを使っていると、いざというときに固有名詞が出てこなくなってしまう。まずは、普段から固有名詞を使って話すことを心がけよう。

◇相手を主語にすると、断れない

 相手が自分を尊重してくれると嬉しくなる。その心理を生かしたのが、相手を主語にする話し方だ。

 代理店で働くAさんは、自分のアイデアを実現したいときに使う裏ワザがあるという。「このアイデアは、部長がこの前言われた顧客離脱率の低下につながると思う」と、「あなたが言ったことを実現する」という体で話すのだ。上司は自分の意見が重視されていると感じ、スムーズに話が進む。

 主語を相手にすると、相手は無意識のうちに話を自分事にしてしまうのだ。すると、相手の中には話を聞くモードができあがる。これは営業の世界ではベーシックな手法だ。

 このテクニックはあらゆる場面で役に立つ。たとえば、コンサルタント会社で働くSさんは、部下が困っているときは、「あなたの強みで勝負しよう」を伝えるという。部下を主語にして強みを伝えることで、部下の迷いは減り、仕事に集中できるようになるのだ。逆に上司から「こうしろ」と指示をすると、上司が主語になり、部下はやらされ感を感じてしまう。

 何かを伝える場合、「相手を主語にできるか」を意識してみよう。「あなたがおっしゃった」と言われたら、相手はもう断れない。

◇大切なのは、批判ではなく提案

 著者が出会ってきた「頭のいい人」の中には、出世街道を駆け上がったり、重要な地位に抜擢されたりする人がいる一方で、そのまま埋もれてしまう人もいる。その分岐点は、言葉にあるのではないだろうか。

 後に著名企業の役員になったYさんは、新卒で入社した会社で、すぐに頭角を現した。しかし、年功序列型の会社で、知識もやる気もない管理職に相当なフラストレーションを溜めていたという。その上司の上司と面談をした際、上司に対する批判や悪口をぐっとこらえて、「私にやらせてください」「私ならこうします」と言ったという。Yさんの言葉に強い印象を受けた上司の上司の引き上げにより、20代という異例の若さでプロジェクトリーダーに抜擢された。その後、Yさんの活躍が目に留まり、外資系コンサル会社にヘッドハンティングされた。最終的に、Yさんは外資最大手企業の管理職にまでなったのだ。

 抜擢される人の多くは、他人や他部署の批判はしない。「私ならこうする」という視点で話す。その言葉に動かされ、周りは「任せてみようか」という気持ちになるのだ。悪い部分を指摘したい気持ちをこらえて、「私がやる」と言えることが、分岐点となるのだ。