韓国の大統領制が
抱える重大な欠陥

 韓国の大統領は宮廷のような執務室で君臨する帝王的大統領だといわれている。韓国の主要紙中央日報は、韓国の大統領制の重大欠陥について論陣を張っている。

 韓国の帝王的大統領制について、詳しくは拙書『さまよえる韓国人』をご参照願いたいが、そもそも大統領に対するチェック・アンド・バランス機能が効いていない。国会で質疑を行うことはなく、行政府の人事も支配し、捜査機関も自分たちに都合良く改革した。文在寅氏は記者会見も極力避けている。

 文在寅氏は国民から隔離された所で執務を行っているので、自画自賛に陥り、ネロナンブル(自分がすればロマンス、他人がすれば不倫という造語で、身勝手な二重基準という意味)が横行するというのである。

 そして国民との遊離の象徴が青瓦台である。文在寅氏も政権を握る前には青瓦台政治の弊害を認識し、国民の間に入ると述べていたが、自らが青瓦台に落ち着いてからは、その心地良さに酔いしれていたのだろう、ますます独善色が強くなってきた。

 文在寅政権の政治手法に対し、大統領選挙後、与党「共に民主党」内部からも批判が噴出している。特に、李在明(イ・ジェミョン)氏に近い非文在寅派の議員からは、「文在寅氏は退任時に(自画自賛ではなく)反省文を残して離れればいい」という指摘も出ている。文在寅氏を後世の歴史家は独裁的大統領として評価するのではないか。

 その意味で、尹錫悦氏が大統領としての勤務を新たな執務室から行うという発想は評価できる。尹錫悦氏にとっても青瓦台で執務する方が快適であろうし、苦労もないはずである。にもかかわらず、あえて青瓦台を出るというのは、大きな覚悟の上であろう。ただ、問題は準備期間があまりにも短すぎるということではないだろうか。

朝鮮半島の安保危機を理由に
青瓦台は大統領執務室移転に反対

 青瓦台は21日、「新政権発足までの残り少ない時間の中で、国防部、軍合同参謀本部、大統領執務室、秘書室、警護処などを移転する計画には無理があるように思える」との立場を表明した。

 青瓦台は文在寅氏も出席して国家安全保障会議(NSC)を開催。その後、朴洙賢(パク・スヒョン)国民疎通首席秘書官は「朝鮮半島安保危機が高まっている。いつになく安保能力の結集が必要な政権交代期に、準備が十分でない中、国防部、合同参謀本部、青瓦台の危機管理センターを急に移転することは『安保空白を招きかねない』との見解を政権引き継ぎ委員会に伝える」と述べた。NSCには通常のメンバーのほか、企画財政相、行政安全相、軍合同参謀本部議長も出席した。

 文在寅氏は、北朝鮮の重大な挑発の際にもNSCを主催しないことがたびたびあったが、今回は自ら主宰したことに疑問を呈するメディア論調もある。「大統領室移転の反対理由に安保を持ち出せる立場か」というのである。