小麦価格が17%上がるのに、食パンの値上げ幅としては1.5%しか上がらないという試算なのは、なぜでしょうか。それは、食パンの小売価格に占める小麦の原材料費の割合が8%だから。これが農水省の試算前提です。

 では、実際はどうでしょう。もし試算の前提として、食パンに入れるマーガリンの価格も上がらない、包装資材のプラスチック価格も上がらない、お店に輸送するトラックのガソリン価格も上がらない、パンを製造する会社の社員の賃金も上がらないというのであれば、食パンの価格は1.5%しか値上がりしないと私も思います。

 しかし、足元の経済はそうではありません。食用油の価格は小麦同様に上昇し、原油価格高騰で包装資材も、工場を稼働させる電気代も、輸送のガソリン代も値上がりしている。岸田政権は、従業員の賃金も上げるように指導している。しかも、海外から物を買う際の為替レートは1ドル=120円台に突入し、一年前よりも10%もドルが高くなっている。

 つまり、食パンの価格が2.6円しか上がらないというのは、小麦だけの値上げを計算した仮想の数値で、実際の食パン価格の予測数値ではないのです。

2022年度の消費者物価指数は
試算以上に跳ね上がる可能性も

 そして、上で述べたような物価の上昇もすべての要素を総合したら、「2%に収まる」という従来の予測が覆りそうな状況が生まれています。

 消費者物価指数の構成要素を細かく見ると、実は昨年10月から日本の物価は1.5%上がっていてもおかしくはない値上げラッシュが始まっていました。それが数字に表れなかった理由は、菅前首相が取った携帯電話の通信料値下げの政策で物価がちょうど1.5%ほど押し下げられ、相殺していたからです。

 今年4月から携帯値下げの要素が影響しなくなるので、次年度は2%の消費者物価指数の上昇になるというのが従来のエコノミストの予測でした。

 しかし、その後2月にウクライナショックが起き、原油価格が高騰し、ウクライナの小麦がヨーロッパに回らない関係で世界の小麦価格が急騰している。そして、為替レートは急激に円安に向かっている。そういう新しい要素を加えたら、実は2022年度の消費者物価は従来予測では済まない可能性の方が高まっています。

「どうしよう。これじゃあ高級生食パンが買えなくなってしまう!」とご心配の国民のみなさんに、マリー・アントワネットのちょっと尊大な点からアドバイスをしてみましょう。

「ブリオッシュが買えないのだったら食パンを買えばいいのに」

 フランス革命のような民衆蜂起が日本では起きないことを心から願います。

(百年コンサルティング代表 鈴木貴博)