幅広い読者層に支持され得る
普遍性を備えた魅力的な絵柄

 続いて、『SPY×FAMILY』が幅広く読まれているという点を伝えたい。同作品が隔週で連載されている『少年ジャンプ+』は、基本的に無料の漫画アプリである。ここでの『SPY×FAMILY』の総PV数は約3.04億(※現時点)で、コミックスを購入した以外の読者が多数付いている。

 また、女性の読者が多いのも特徴である。筆者の知る20~30代女性は数人読んでいるから、「無料アプリ」に目ざとい10代ユーザーならなおのことチェックしているはずであろう。

『SPY×FAMILY』を無理やりカテゴライズするなら、連載されている媒体の傾向から「少年漫画」ということになるのであろうが、その垣根を越えて女性読者層がとっつきやすかった理由はまず絵柄、そして内容である。

 絵は非常にきれいであり、線がすっきりしていて読みやすい。筆者は完全に少年漫画系統の絵柄として認識していたが、本作品を知らなかった40代女性は、一見して「絵が少女漫画っぽい」と評していたから、少年漫画・少女漫画のカテゴリーにとらわれない普遍性が、『SPY×FAMILY』の絵にはあるようだ。

 そして筆者も長いこと読んでいるうちにだいぶ感覚は薄れてきてしまったが、当初は「なんてかっこいい男性とかわいい女性か」と驚嘆したもので、登場人物はルックスだけに限ってもはなはだ魅力的である。

 内容に見られる要素は、ギャグ、アクション、サスペンス、家族愛、萌えなどであろうか。スパイの父(主人公)、殺し屋の母、超能力者の娘、3人が寄り集まって偽装家族を演じる……という舞台設定である。

「世界の平和を守る」という大テーマがある中で、主に1話完結が基本となっているが、前述のこれら各種要素が非常に高い水準でテンポよく繰り出されるため、読者層をえり好みせず、またそれら読者を深く満足させる趣向となっている。