1話完結スタイルでも異例の人気
その理由とは

 通例、ギャグベースで1話完結の連載作品は、飛躍的な人気が出にくい。バトルやスポーツで戦いや試合が続いている中で、1話ごとに「つづく」となったほうが読者をひきつけやすいのである。

 しかし『SPY×FAMILY』は1話完結作品にしては異例の引力がある。この引力のゆえんを知るには、作品をやや細かく分析する必要がある。

 まず幾重にも設定された大テーマである。主人公の「世界を守る」という任務の行方(この作品にこうした陳腐な表現は似つかわしくないが)、主人公と妻の恋模様、家族として絆が強まっていく様子、娘・アーニャの奮闘と成長などなど……1話完結作品であるにもかかわらず、先の展開を楽しみにさせる要素がいくつも用意されている。

 そしてこの娘・アーニャの存在が白眉である。アーニャの突拍子のない言動や多彩な表情を追うだけでも全く飽きが来ない……くらいの強みがこの作品にあるのは確かなのだが、アーニャのすごさはそれにとどまらない。

 アーニャは一見、主にギャグと萌えを担当するマスコット的な役どころであるかと思いきや、アクションやドラマも担う主要中の主要な人物である。生意気さや至らなさと懸命さがあいまってたまらなくかわいいので、すっかりアーニャが好きになっている読者は、シリアスパートでアーニャに一層深く深く感情移入する。また、アーニャが時折見せる幼児(原作中では6歳を自称)特有のけがれのなさにも心を揺さぶられることになろう。

 とっつきやすい絵に誘われて読み始めた読者が、一気に作品世界に没入させられるのが『SPY×FAMILY』であり、この点は閲覧のハードルが低い『無料漫画アプリ掲載』との相性も良かった。かくして、メディアミックス以前の段階でコミックスがバカ売れするという人気を博すことになったわけである。

 涙もろくなってきている年代のわれわれ中年には、作品内で描かれる家族愛やアーニャの頑張りに、とりわけ感動するはずである。であるから、変に「若者におもねろう」という心構えで『SPY×FAMILY』視聴に臨む必要はない。何やら話題で、確かにちょっと面白そうで気になる作品を視聴してみれば、一視聴者として対等に、今どきの若者や女性と話題が共有できるようになるわけである。

 アニメ版第1話は、4月9日23:00にテレビ東京ほかで放送開始。また、動画配信サービスの主要どころにおいては、同日23:30から配信がスタートする。本稿を読んでおけば予習はほぼ完璧に済んだはずなので、あとは本編を楽しみに待たれたい。