「社外から人材を調達すればいい」という考えは安易
デジタルスキルを備えている人は引く手あまた

「経営者は、自社をどのように発展させたいのかを明示し、そのためには、どのようなスキルや働き方が必要なのかを示すべきです」

「社外から人材を調達すればいいと思うかもしれませんが、デジタルスキルを備えている人は引く手あまたで、激しい人材獲得合戦が予想されます。だからこそ、自社の従業員再教育が極めて重要なのです」

「『自分が持っているスキルは何か?』『どのような新スキルを学ぶ必要があるのか?』などを従業員が自覚し、新スキルを身に付けるよう、企業が絶えず後押しすることも非常に重要です」

 ここで大事なことが、スキルの可視化だ。これに関しては、スキルマップやスキル管理システム、そして、(スキルだけでなく従業員の基本情報や業務経験の記録を兼ねた)タレントマネジメントシステムといった方法がある。

 たとえばAGCグループでは、社員のスキルを一覧にしたスキルマップがあり、もともとは、ガラスの溶解技術や成形技術など、化学技術に関するスキルのみを対象として始めたもので、今では営業や広報、人材労務といったさまざまなスキルを対象にしている。

 ユニークなのが、そのスキルマップをもとに、社内のサードプレイスが生まれている点だ。人材の配置や採用のためにスキルマップを導入したが、データ化の労力の割になかなか目的に生かすことができなかったために、今は、似たスキルを持つ人同士が、所属する部門を超えて技術交流会を行う活動の軸に活用しているという。業務の課題を部門活動的に解決する流れができたり、自分の意思でスキルを上げたりと、当初の目的とは異なる形で役立っているとのことだ。

「リスキリング」という言葉が
なぜこれほどまで注目されることになったのか?

 そもそも、この「リスキリング」の言葉がなぜこれほどまで注目されることになったのか? そのためにはまず、この言葉がどのような意味で使われているのか、共通認識を持っておきたい。

 2021年2月に経済産業省が主催した「デジタル時代の人材政策に関する検討会」に提出した資料の中で、リクルートワークス研究所・人事研究センター長の石原直子氏は、「リスキリング」を「新しい職業に就くために、あるいは、今の職業で必要とされるスキルの大幅な変化に適応するために、必要なスキルを獲得する/させること」と説明。現在、国内でこの定義が広く用いられている。

 一方、『ウィズダム英和辞典 第3版』(三省堂)を引くと、「(再就職に向けた)職業トレーニング」とある。また、国内におけるリスキリングの普及に取り組む一般社団法人ジャパン・リスキリング・イニシアチブの代表理事である後藤宗明氏によれば、海外ではおもに、「デジタル分野へのスキル転換」とほぼ同義で使用されているという。

 文脈によって多少、意味合いは変わってくるが、基本的には「デジタル化時代、長寿化時代に適応するために新たなスキルを身につけること」と認識しておけばよいだろう。