SECIモデルは共感から始まり、
対話や共体験を通じて本質を突き詰める

 マイクロソフトCEO兼会長のサティア・ナデラ氏は、AIの研究者は「人間の置き換え」ではなく、「人間の能力拡張」を目指すものだと訴えている。人間の幸福とは何かを考え、その実現に役立つ人間中心の発想を核にして事業を展開していくと言う。そのため、AIが普及すればするほど、他者に共感(Empathy)する力を持つ「共感のリーダーシップ」が必要になる。

 知識には、経験や勘など言語化の難しい主観的な知識である「暗黙知」と、言語や図を活用して説明できる「形式知」がある。繰り返しになるが、イノベーションの創出には、直接経験がベースになっている暗黙知が欠かせない。ただし、暗黙知と形式知は二項対立ではっきりした境界線があるのではなく、グラデーションでつながっている。状況に応じて使い分けられ、相互作用を繰り返しながら、組織的な集合知へと発展していく。

 我々が提唱しているSECI(セキ)モデルは、このような考え方が下敷きになっている。すでにご承知の方も多いと思うが、SECIモデルとは、個人が持つ知識や経験(暗黙知)を組織全体で共有(形式知化)し、ユニークな集合知を創造し、またその組織知の実践を通じて個人の暗黙知を豊かにしていく循環型のフレームワークである。

 すなわち、共感からまず始まり、対話や共体験を通じて、物事の本質を徹底的に突き詰め、デジタルもアナログも総動員して理論や物語をつくり出す。こうして得られた組織的な知識を実践の中で活用し、自己変革へとつなげていく。これを繰り返していくことが、SECIモデルの核心といえる。

 知識(knowledge)を知恵(Wisdom)に変えていくためには、実践知(Practical Wisdom)が必要となる。こうした知識創造プロセスを組織的に押し進めていくのが「実践知リーダーシップ」にほかならない。

 

 実践知リーダーシップの本質は、「ヒューマナイジング・ストラテジー(人間くさい戦略)」にあり、それは分析ありきで得られるものではなく、まずは直接経験ありきである。初めに思いがあり、それを戦略として展開していくと「人間の生き方」の物語となる。この生き方は、分析から生まれるわけではなく、新しい現実を共創する集合的な意味づけ、価値づけから生まれてくる。

 すなわち、現代における知とは、変化のただ中で「何が本質なのか」を直観し、素早く行動し、間違っていたらすぐさま修正していく。いまの時代、固定された知識ではなく、他社・他者との関係性の中で、動的かつアジャイルなアクティビティが求められているのだから。