「選手も本意ではないはずだが、こういう戦い方をしなければいけないときもある」

 決勝トーナメントへ進むための苦渋の決断であり、責められるべきはグループリーグを勝ち抜くレギュレーションを定めた国際サッカー連盟(FIFA)と言っていい。

鈴鹿が敗戦を指示した理由は
「同一地域の他チーム」への意識

 対照的に鈴鹿が敗戦を指示した理由はちっぽけな虚栄心だった。

 JFL最終節を前に2位のテゲバジャーロ宮崎のJ3昇格が確定。他の上位は首位のヴェルスパ大分、3位の仙台、4位のHonda FC、5位の鈴鹿と2020シーズンの段階でJ3への昇格資格のないクラブが占めていた。

 さらに6位にいわきFC、7位にヴィアティン三重、8位にFC大阪と昇格の可能性を残すクラブが僅差で続いていた。J3昇格にはJFLでまず4位以内に入る必要がある。

 ごく近い将来のJ3昇格を目指す鈴鹿としては、いわき、三重、大阪が昇格しないほうが望ましい。特に同じ県を本拠地とする三重が、一歩先に県勢初のJクラブとなる状況はどうしても阻止したかった。

 さまざまなシミュレーションを重ねた結果、仙台に敗れたほうが下位の3クラブ、特に三重が昇格する可能性が小さくなると鈴鹿は判断。仙台戦を2日後に控えたミーティングでの西岡会長の発言につながった。

 さらに仙台へ移動した試合前夜に、宿泊先のホテルで吉田社長、塩見氏、監督、スタッフ4人、遠征に参加した選手17人によるミーティングを開催。塩見氏が仙台戦で意図的に負けるようにと指示を出した。

 JFAの公式ホームページには、塩見氏による「同一地域の他チームに昇格されないように負けてほしい」や「わざと失点するようにペナルティーエリア内でファールをしてPKを与える」などの具体的な指示が掲載されている。

 八百長の指示に激しく反発した選手に対して、塩見氏も「お前らには嫌でもやってもらう」や「試合に負けなければ途中でグラウンドに割り込んででも試合を中止させる」などと応戦したという。