ロシアのウクライナ侵攻を受けて原油相場は急騰し、2008年以来の高値を付けた。その後、反落したものの、侵攻前を上回る高止まりが続いている。今後、再び高値を追う可能性もある。その条件と影響を検証した。(三菱UFJリサーチ&コンサルティング調査部主任研究員 芥田知至)
対ロシア制裁強化への懸念から
3月上旬に高値付ける
原油相場は高止まりしている。3月7日には一時WTI(ウエスト・テキサス・インターミディエイト)は1バレル当たり130.50ドル、ブレントは139.13ドルとともに2008年7月以来の高値まで上昇した。3月16日にはWTIは94.07ドル、ブレントは96.93ドルまで売り戻される場面もあったが、その後、一進一退となっている。
昨年末からの相場の動きを時系列で振り返ってみよう。
原油市場では、昨年末頃から、新型コロナウイルスのオミクロン株への警戒感の後退、世界景気回復を受けた石油需要増加、OPEC(石油輸出国機構)と非OPEC産油国で構成する「OPECプラス」の増産加速に慎重な姿勢などが相場押し上げ材料になった。
1月に入ると、ウクライナや中東での地政学リスクへの懸念も加わり、ロシアのウクライナ侵攻前から原油相場は上昇傾向にあった。
そこに、2月24日、ロシアがウクライナへの本格的な軍事侵攻を開始した。G7(先進7カ国)は緊急首脳会議でロシアに経済・金融制裁を科すと表明した。もっとも、25日には、米政権が対ロシア制裁について、エネルギー市場に打撃を及ぼす意図はないと説明したことや、ロシアがウクライナとの協議に向けて前向き姿勢を示したことが原油の上値を抑えた。
しかし、その後、相場上昇は加速した。西側諸国によるロシアへの金融制裁の強化などがエネルギー取引を制約するとの懸念や、欧米石油メジャーによるロシア事業からの撤退発表、日米欧などIEA(国際エネルギー機関)加盟国による6000万バレルの備蓄放出の合意が量的に不十分と評価されたことなどが相場を押し上げた。
3月2日には、米政権がロシア産の原油や天然ガスも制裁対象とする可能性に言及した。OPECプラスによる、4月も日量40万バレルの小幅増産を維持するとの決定や、パウエルFRB(米連邦準備制度理事会)議長が3月のFOMC(米連邦公開市場委員会)での利上げ幅を0.25%にとどめる姿勢を示したことも強材料だった。
6日にブリンケン米国務長官が「欧州諸国とともにロシア産原油輸入を禁止する可能性」を表明したことや、ロシアがイラン核合意再建交渉に際して、米国の対ロ制裁がロシアとイランの貿易に影響しないとの保証を要求したことが、ロシア産原油の供給減観測やイラン産原油の供給増期待の減退につながり、7日には、一時WTIは130.50ドル、ブレントは139.13ドルとともに2008年7月以来の高値まで上昇した。
しかし、9日は、UAE(アラブ首長国連邦)の駐米大使が原油増産への支持を表明したことを受けて、WTIが12.1%安、ブレントが13.2%安と急落した。それまで消費国からの大幅増産要請にもかかわらず、OPECプラスは小幅増産にとどめていたが、そうした姿勢が変化することが期待された。
11日には、プーチン露大統領がウクライナとの停戦交渉に「進展があった」とし、原油が売られる場面があった。14日は、ウクライナ停戦交渉の進展期待や、中国でのオミクロン株の感染拡大懸念を背景にWTIは5.8%安、ブレントは5.1%安となった。
15日も、ウクライナのゼレンスキー大統領がロシアの停戦交渉への姿勢が「建設的」になったとされたことや、11日に中断されたイラン核合意再建交渉について、その障害になったとみられる前記のロシアの要求が認められてイラン産原油の供給増加観測が強まったことから、WTIは6.4%安、ブレントは6.5%安となった。16日には2月下旬以来の安値を付けた。
このように急騰後、反落した原油相場だが、3月後半以降高止まりが続いている。ここから再度高値を公算もある。その背景を次ページから検証する。