大谷翔平のメジャーリーグ初ホームランの直後に写真撮影に応じるクリス・インコーバイアさん(左)とマシュー・グティエレズくん(写真撮影:志村朋哉)大谷翔平のメジャーリーグ初ホームランの直後に写真撮影に応じるクリス・インコーバイアさん(左)とマシュー・グティエレズくん(写真撮影:志村朋哉)

 オハイオ州クリーブランド出身のインコーバイアさん(36)は、物心ついた時から地元インディアンズの熱狂的ファンだった。今はフロリダ州タンパで高層ビルの建築技術者として働いている。

 大谷が初ホームランを打ったエンゼルス対インディアンズの試合は、ちょうどロサンゼルス出張と重なっていたため、「これは行くしかない」と奮発して右中間スタンド最前列の席をとった。試合の直前まで、大谷については「ほぼ何も知らなかった」と言う。

 一緒に観戦した同郷かつ同僚であるアダム・ジーアックさん(37)に、「二刀流のすごい選手がいる」と説明を受けた。「ベーブ・ルースのような、もしくはそれ以上の存在になり得る。現代野球で彼ほどの可能性をみせた選手はいない」と。

 1回裏、走者二、三塁という場面で、大谷はホームランを放った。オープン戦での不振を忘れさせるような強烈な当たりだった。

「ボールが上がって、こっちに飛んできましたが、捕れるほど近くはないだろうと思いました」とインコーバイアさん。「アダムが右隣で『とりに行け!』と言っているのが聞こえました。でも人を押しのけたり、飛び越えたりして捕るなんて絶対に嫌でした」

 ボールは人だかりができていたインコーバイアさんの左側の通路階段に落下した。インコーバイアさんは足元に転がってきたボールを拾った。顔を上げると、後ろの席に座っていてさっきまで雑談していたという当時9歳のマシュー・グティエレズくんと目が合った。

 すかさずボールをマシューくんのグラブに入れて、優しく背中をたたいた。

「大谷のボールだということは分かっていましたが、ボールをあげることが正しいことだと心の中で分かっていました」とインコーバイアさん。「男の子もボールを大谷に返してしまいましたが、それでも僕よりずっと喜んでいたはずです」

 インコーバイアさんがボールを拾うのを見たジーアックさんは、当然のことながら興奮していた。

「『これはすごいことだぞ! ボールはどこ?』と聞くと、『あげちゃったよ』と言うんですよ」とジーアックさん。