「(マシューくんは)エンゼルスのファンで、僕はインディアンズのファン。彼のほうが、ずっとありがたみがわかるはず」とインコーバイアさんが言った時の、後悔をみじんも感じさせない穏やかな表情を、私は今でも忘れられない。
試合後、大谷にボールを贈呈するため、マシューくんは球場のクラブハウスへ招かれた。
一緒に呼ばれなかったインコーバイアさんとジーアックさんは、「大谷には会えそうにない」と思い落ち込んだと言う。しかし、試合が終わりに近づき、球場を出ようと歩いていたら、インコーバイアさんの携帯に突然、電話がかかってきた。エンゼルスの職員から大谷にボールを贈呈するのに立ち会ってほしいとお願いされたのだ。
立ち聞きしていたジーアックさんが、機転をきかせた。
「ふと目をやると、すぐ側にグッズショップがありました。大谷に会えるというのに、何も持っていかないなんてあり得ません。グッズショップに駆け込んで、大谷の白いユニホームを買いました」
マシューくんとインコーバイアさんとジーアックさんは、カメラに囲まれる中、数分程度だったが大谷と面会を果たした。とにかく大谷の体の大きさに驚いた、と3人とも口をそろえる。
「言われている通り、とても大きくて存在感があります」とインコーバイアさん。「普通のメジャーリーガーに会うのとは全く違うとすぐに感じました」
マシューくんはボールを手渡し、握手をしてもらい、サイン入りのバットとボールをもらった。インコーバイアさんとジーアックさんも買ったばかりのユニホームにサインをもらった。
![ルポ 大谷翔平 日本メディアが知らない「リアル二刀流」の真実](https://dol.ismcdn.jp/mwimgs/c/d/200/img_cd58b18da89eac76d43b94092afb21b2317566.jpg)
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「とにかく驚きと興奮でいっぱいでした。大谷に会えたり、テレビに出演したり、ドキドキの連続でした」とマシューくんは振り返る。
インコーバイアさんは、記念球を譲ったことに、本当に後悔はなかったのだろうか?
「あの年齢の子にとって、あんな名誉なことはありません。スポットライトを奪おうなんて気はみじんもありませんでした。与えていれば、いつか報われます。大谷に会って、サインをしてもらって、一緒に写真を撮れただけで十分です」
4年がたった今も、インコーバイアさんとマシューくんの中で、思い出は色あせていない。大谷がホームランを重ねるたびに、むしろ輝きは増していくのだろう。(在米ジャーナリスト・志村朋哉)
※AERA dot.より転載