「親のお金」を
もっと早く見ておくべきだった

 時間を約10年巻き戻そう。筆者の父は札幌で観光土産品の卸売り・小売りの商売をしていた。しかし、北海道のその種のビジネスの利益が乏しくなったことから、店舗をコンビニエンスストアに変えるなどの手を打って、70代後半に引退した。経済的には特別豊かではないが、まあまあ成功した部類だろう。80代に入ってからは母と札幌市内の地下鉄の駅に近いマンションで暮らしていた。

 父の趣味は囲碁と俳句と油絵だったが、お金は自分の会社で取引のあった地元の地方銀行と、某大手証券会社の口座に大まかに言うと半々くらいに置いていた。金額的には、自分自身の最晩年にかかる費用と、自分の妻が将来使うであろう費用に対して「まずまず余裕があるだろう」というくらいのものだった。

 当時、息子である筆者は、証券会社の口座では、個別株を数銘柄から十数銘柄くらいを売買していることを知っていたが、「余裕のある金額の中で本人が気に入った銘柄に投資しているのだろう」と思っていたので、何も言わなかった。

 さて、父が亡くなったのは89歳の時だったが、証券口座には、あまりもうかっているとは言えない個別株投資の何銘柄かの他に、結構な金額の毎月分配型の投資信託があった。それを見た時、「もっと早くに父の口座をチェックしておけばよかった」と後悔した。たぶん、父を担当していた証券会社の人に頼まれて「付き合って買った」のだろうが、息子である筆者が書籍や原稿で「絶対にダメなので買うな」と言っていた種類の商品だった。

 ついでに言うと、個別株投資についてもコミュニケーションを取っていたら、父は株式投資をもっと楽しいものだと思っていただろう。そして、証券口座の金額は大いに違ったものになっていたはずだと思う。

 筆者は勤務先が証券会社であるし、投資について情報を発信する仕事をしていたので、父に、「この株を買え、あれは売れ」といったアドバイスをしにくかった。ただ、株式投資をもう少し楽しむことができる方法を教えられたのではないかと思うと後悔を覚える。