この二つの歴史問題は、韓国側から過去の合意や経緯を無視して一方的に持ち出されたものである。韓国はこれまで歴史問題について被害者と加害者の立場を持ち出し、日本に強い姿勢で臨めば、日本側は譲歩するのが当然という意識で交渉を行ってきた。また、日本が韓国に誠意を持って謝罪していないとの被害者団体の認識が国民の間で共有されてきた。

 これを是正できるのは韓国では大統領しかいないが、文在寅(ムン・ジェイン)前大統領はむしろ上記の認識を助長し、韓国国民の声をバックに日本に圧力をかけようとした。その結果、日本国民はこれに反発し、日韓関係は史上最悪の状況に至った。

 しかし、国家間の合意を尊重するのが国際社会の普遍的ルールである。日韓関係も通常の外交関係に立ち戻り、このルールを改めて確認することが健全な日韓関係に不可欠な時期に来ている。いつまでも過去を背負っての関係などあり得ない。

 岸田首相の就任式出席は韓国側に過剰な期待感を与えかねなかった。だが、普遍的な外交交渉のルールを確立することが日韓関係修復の出発点となるべきであり、そのために岸田首相が大統領就任式に出席しないのは、長期的視点で有意義なことである。

 文在寅政権下で関係が最悪となった今、韓国側の対日姿勢を変えることは容易ではないかもしれない。しかし、尹錫悦政権では過去の保守政権で日韓関係を担い、これまでの経緯を理解する専門家集団が中枢にいる。尹錫悦政権で変えなければ、未来永劫(えいごう)、日韓関係は成熟しないであろう。そうした長期的ビジョンを持って交渉していくことが求められている。