相手も自分も心地いいコミュニケーションをするために、「言葉の使い方」はとても重要だろう。言葉一つで、前向きな気持ちや幸せな気持ちになれるし、その逆も然りだ。このたび、さまざまなシーンごとにすてきな言い方を紹介する『いつもの言葉があか抜ける オトナ女子のすてきな語彙力帳』が刊行された。著者は7万人を超える人にコミュニケーションを伝えてきた吉井奈々氏だ。吉井氏は全国で講演をするほか、発信しているYouTubeの映像は1日10万時間以上再生され、総再生回数は900万回を超すコミュニケーションYouTuberでもある。
今回は、本書の発売を記念し、特別インタビューを実施。第7回は「断り下手の特徴」は「感じのいい断り方」について聞いた。(取材・構成:小川晶子 写真:疋田千里)
感じのいい断り方【ベスト1】
──私は断るのが苦手で、依頼やお誘いなどお断りせざるをえない状況のときにも、いつも断り方で悩みます。断ったあとも、感じ悪かったのではないか?と考えてしまって。同じように断るのが苦手と感じる人もいると思うのですが、断り下手な人の特徴ってありますか?
吉井奈々(以下、吉井):断るのが苦手な人は、「断ったらこう思われる」という想像力が豊かなんですよね。実際、断り方によっては印象が悪くなります。
たとえば、「この仕事、今月中にお願いしたいんだけど」と言われたとき「今月中は無理です」と断ったら、相手は残念な気持ちになるでしょう。でも、「ご依頼ありがとうございます。来月中ならできるのですが…」と伝えたら印象は全然違います。
断り下手な人は、イエスかノーの二択で考えてしまうんです。せっかく頼ってもらったのだから答えたい、でも答えた結果いろいろな不都合がある……、だからノー!「できません」と言ってしまう。そうではなく、「ここまではできます、ここからは難しいです」「半分はできるのですが、もう半分はできないので誰か助けてもらえたら嬉しいです」というように答えることができれば、0か100かではなくなります。自分にとってちょうどいい塩梅で断るわけです。
感じのいい断り方【ベスト2】
──なるほど。50%断る、70%断るのように考えればいいのですね。断り下手の悩みの一つに、お断りの返事がつい遅くなってしまうというものがあります。メールでお断りをするとき、すぐに返事をしたほうがいいとは思うものの、「何といって断ろう」と悩んでいるうちに返信が遅くなってしまうんです。
吉井:そういうときは、いったん「検討するので少々お待ちください」という返事をします。「夜までにはお返事しますね」「土日をはさんで月曜日にはお答えします」と目途を伝えておきます。そして断り方を考えてから返事をするのがいいと思います。何も返信しないまま一日二日経ってお断りすると印象が良くないですからね。
プラス言葉サンドイッチで、感じよく断る
──本の中に「プラス言葉でサンドイッチ」という話があって、これも取り入れやすく、感じがいい断り方だと思いました。「声をかけてくださってありがとうございます」というプラスの言葉から始まって、「申し訳ありません、今回はこういう理由でお受けするのが難しいです」と断り、「またぜひお声かけください」とプラスの言葉でしめる。こういう断り方なら、相手は拒絶された感じがしないですよね。
吉井:そうそう。ただ、本当にもう依頼されたくない場合には「またぜひお声かけください」とは言わないほうがいいです。声をかけてもらったことに対する感謝の言葉と、「こういう理由でできないのです」ときちんと断りましょう。ケースバイケースですね。
「プラス言葉でサンドイッチ」を基本にしながら、「ここまではできる」というのがあれば、50%断る、70%断るというようにしたらいいと思います。
──そうやってパターンを持っておけば、断っても「感じのいい人」になれそうですね!
断っても大丈夫! 都合のいい子から卒業しよう
吉井:断るのが苦手な人は、「いい子であらねばならない」という思い込みを持っていることが多いです。子どもの頃に「いい子だね」とよく言われていた人がよくこういう思い込みを持ちます。
「いい子」って、見方によっては相手にとっての「都合がいい子」の場合があります。大人は子どもに対して「静かに待っていていい子だね」とか「泣かなくていい子だね」と、大人にとって都合がいいときに言いがちですよね。そして、「いい子でいないと親に嫌われる」という思い込みをもったまま大人になると、断ることに恐怖心が強い「いい人」になってしまいす。
でも、誰かの都合のいい子として振り回され、自分の人生を生きられないのはイヤですよね? まずは、「できません」と断っても命の危険はないんだと心の深い部分で理解することです。子どもの頃は親の言うことをきかないと親に見捨てられるという恐怖=命の危険性があったかもしれません。
たとえば「遊ぶヒマがあったら勉強しなさい! 親の言うことを聞かない悪い子は家から追い出すよ!」と言われると生活能力の無い子どもからすると、親の言いつけを断ると家を出される、捨てられる=命の危険ですよね。でも、大人になったあなたは働いて自分の力で生活することができます。何かを断っても大丈夫。自分で選んで自分で命を守ることができるから「私は誰かに振り回されなくてもいいんだ」と心に安心を作ってあげることが大切です。
──思いがけず深い話になって、吉井さんの懐の深さを感じます…。断ることに対する恐怖心を克服する方法はあるのでしょうか?
吉井:本番の前に、言葉を選ぶ練習、声に出す練習をすることです。たとえば、保護者会のような場でいろいろ頼まれ、都合よく使われてしまうという悩みがあるとしますよね。実際の保護者会で「できません」「私を都合よく使うのはやめてください」というストレートな言葉は角が立ちますし関係性を良くすることは難しいでしょう。断るにしても言葉選びはとても大切です。
なので、断るのが苦手な人は、一人でいるときに想像力を使ってトレーニングをするんです。こういうシチュエーションを断る時には、こういう言葉で、こういう表情で、こういう声で断る、それを考えるだけでなく声に出して言ってみるのです。
この本にある言葉すべてについて言えることですが、一人でいるときに練習しておけばとっさのときにも使いたい言葉が出るようになります。「言葉の素振り」です。何回も素振りをしておくから、本番で打てるんです。
断らなければいけないシーン本番でいきなり断ろうとすると、恐怖心もあるし失敗しちゃいます。言葉を考えておくだけではなく、実際に声に出して言ってみることをおすすめしたいですね。
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一般社団法人JCMA代表理事、コミュニケーション講師
企業や教育機関でコミュニケーション講師として活躍。15年間にわたって約7万人に「心を大事にするコミュニケーション」を伝えている。
出生時に割りあてられた性別は男性だったが、性別適合手術を受けて戸籍を女性に変更し、現在は男性と結婚。自身の生き方と経験から、さまざまな立場の人の気持ちを汲んだコミュニケーションが得意。
日本郵政や法務省、日本コカ・コーラ、日産自動車、日本アイ・ビー・エムなど多くの省庁や企業で講演や研修を担当。現場で使えるコミュニケーションスキルやマネジメントの考え方は再現性が高いと評判で、大手コンビニチェーンでの講演は「また来年も聞きたい講演会ナンバーワン」に選ばれる。著書に『オトナ女子のすてきな語彙力帳』など。