「観光公害」はモラルで解決できない
日本の観光地を救う手はタイにあり!?

「観光公害」という問題が、モラルやマナーという観光客側の精神論で解決できないというのは、実は日本だけではなく、世界の常識となっている。

 世界中から観光客が押し寄せるような観光地では、「呼びかけ」や「お願い」をいくらしてもまったく意味がない。そこで続々と「有料化」や「規制」というシステムを導入している。例えば、混雑やゴミ問題が深刻なっているイタリアの世界的観光地ベネチアでは、街の清掃や補修費用にあてるために観光客から「入場料」を徴収するようになる。

 では、それを踏まえて、不法投棄が深刻な日本の観光地はどうすればいいのか。個人的には、日本人が最も恐れる「自分が周囲にどう見られるか」ということを逆手にとったシステムを導入をするべきだと考えている。

 例えば、キャンプ場などの場合、利用前に身分証明書を提示して、自分が借りた区画にゴミの不法投棄などがあった場合、自宅に着払いで送り届けてもいいという誓約書にサインをさせるようにしてはどうか。

「自分が周囲にどう見られるか」を過度に気にする日本人にとって、自宅に大量のゴミが送りつけられるなんて事態は絶対に避けたい。「旅の恥はかき捨て」ができないシステムだ。

「そんなマンガのようなアイディアは現実的ではない」と思う人もいるかもしれないが、アジアを代表する観光立国では、すでにこれは実現化されている。タイだ。

 タイのカオヤイ国立公園は、絶滅の危機に瀕した動植物が多く生息しており、2005年には世界自然遺産に登録された。そのため多くの観光客が訪れているのだが、やはりそれだけ多くなるとマナーの悪い人間も出てくる。そこで、対策として、ポイ捨てをしたことが判明した場合、「カオヤイ国立公園での忘れ物です」と書かれたメモをつけて、自宅にゴミが送り返されるようになっている。

 日本では国立公園というのは、タダで好き勝手に入れてゴミも捨て放題というイメージだが、海外のナショナルパークは入場料をとって、身分証明書などの提示を求められる場合も少なくない。タイもそのひとつで、利用時に住所を登録するのだ。

 日本がこういうシステムを導入するという話になると、どうせ「プライバシーがない」「公園は誰もが楽しめる憩いの場だ」とかいう反対運動が起きるので、国立公園は難しいが、民間のキャンプ場ならば、自分たちでルールを決めることができる。

 観光地にゴミを散乱させたまま帰るような人たちというのは基本的に、見ず知らずの土地でどんな非常識なことをしても、自分の日常生活が脅かされることがない、という慢心がある。ゴミを送りつけることで、それが大間違いだということをわからせていくのだ。