「お客様は神様です」の勘違い
観光地は無料という常識を変えよう

 という話をすると決まって出てくるのが、「そんなに規制を厳しくしたらゴミは減るけど観光客も減ってしまう」という慎重論だ。

 最近も多くのバーベキュー客でにぎわう埼玉の人気スポット・飯能河原が、ゴミや騒音が問題になっているので実験的に有料化にしたところ、利用客が大幅に減って、周囲の観光業者が悲鳴をあげている、というニュースがあった。

 しかし、神奈川県川崎市の多摩川河川敷のように、バーベキュー場を有料化したことでゴミも減って、河川の自然環境も守られるようになったというケースは山ほどある。当初は利用者も減るだろうが、それにともなって「カネを払わずバカ騒ぎをしたい」というマナーの悪い客も減っていく。有料化で清掃などの環境整備も進むので、観光池としての満足度が上がっていく。長い目で見れば、有料化は観光客と観光地の質を向上していくことになるのだ。

 そこに加えて、筆者はそのような、「無料観光地」こそが日本人観光客のマナーを悪くさせた「真犯人」だと思っている。ただでさえ、「旅の恥はかき捨て」という倫理観があるところに、「観光地はタダが当たり前」ということが、マナーの悪い輩をさらにつけあがらせてしまったのだ。

 というのも、日本の「客」というのは、ちょっとでも甘い顔を見せると、「オレはお客様だぞ」とでかい顔をするようになってしまう傾向があるからだ。それを象徴するのが、浪曲師・三波春夫さんの名言「お客様は神様です」だ。ご存じの方も多いだろうが、これはもともと三波さんの「歌」に対する心の持ち方について語ったものだ。

「歌う時に私は、あたかも神前で祈るときのように、雑念を払ってまっさらな、澄み切った心にならなければ完璧な藝をお見せすることはできないと思っております。ですから、お客様を神様とみて、歌を唄うのです」(三波春夫オフィシャルサイト

 しかし、いつの間にやらこの言葉は「顧客至上主義」の文脈で使われるようになる。モンスタークレーマーたちが王様のように振る舞って、店側に土下座を迫るような場面でも、「客は神様だろ!」なんてすごむことがある。

 実はこれとまったく同じことが、「旅の恥はかき捨て」でも起きている。