選別される生保・損保・代理店#2Photo by Yasuo Katatae

2021年11月、東京海上グループのダイレクト系損保、イーデザイン損害保険はグループ内の“インシュアテック保険会社”として、DX(デジタルトランスフォーメーション)の推進役を担うことになった。そこでイーデザイン損保は同月、満を持して新商品を発表したが、その後半年間、なぜかその新商品に光が当たることはなかった。特集『選別される 生保・損保・代理店』(全28回)の#2では、この半年間、東京海上グループ内で何が起こっていたのかに迫った。(ダイヤモンド編集部 片田江康男)

DXを実践した象徴「&e」
発売即棚上げの背景とは

「イーデザイン損保は、東京海上グループ内の“インシュアテック保険会社”として再スタートする――」

 こう高らかに宣言したのが2021年11月。同月18日には、本格的DX(デジタルトランスフォーメーション)を実践したとうたう新商品「&e(アンディー)」の発売を発表した。

 イーデザイン損害保険は、東京海上グループ内のダイレクト系損害保険会社。東京海上日動火災保険などの損保会社は自動車ディーラーや損保代理店など代理店経由で保険を販売する一方、ダイレクト系損保はインターネットで手軽に契約できることが売り。代理店による手厚いサポートがない分、保険料は安い。

 ダイレクト系損保市場の最大手は、ソニー損害保険。大量のテレビコマーシャルを投下し、抜群の知名度を誇る。09年、イーデザインは最後発として、この市場に参入した。

 もっとも、ダイレクト系損保は成長を続けているものの、自動車保険全体の1割に満たず、各社とも苦しい状況が続いている。最後発のイーデザインも同様で、開業以来20年度まで赤字続き。東京海上グループ会社の序列の中では、明らかに最下位の事業会社だった。

 そんなイーデザインをインシュアテック保険会社に衣替えすると宣言。業界内では、損保業界の盟主である東京海上グループが、いよいよDXへ本格的に動きだすと話題になった。

 新商品&eも、東京海上グループらしからぬネーミングとコンセプトで注目された。

 顧客は手のひらサイズのIoT(モノのインターネット)デバイスを車に設置し、スマートフォンと連動させる。それによって運転データが収集され、顧客は運転挙動のレポートや「ハート」というポイント制度を利用できる。また事故対応も、スマホを1タップするだけで保険会社に連絡できるなど、操作性の良さも追究されている。

 ところが、である。

 ダイレクト系損保のプロモーションの常とう手段であるテレビコマーシャルやインターネット広告など、プロモーション活動は一切行われなかったのだ。

 それどころか、イーデザインのホームページも、従来商品のプロモーションで長らく起用していた俳優の織田裕二氏が前面に出ていた。つまり、DXシフトを高らかに宣言し、&eを発売したにもかかわらず、実質的に棚上げ状態になっていたのだ。

 商品開発コストは約120億円。普通なら発売と同時にすぐに契約を獲得し、コストを回収したいところだろう。

 なぜ、イーデザインの&eは、棚上げになったのか。背景を探ると、東京海上グループがはまったジレンマが浮かび上がってきた。