王岐山国家副主席が
訪韓した本当の狙い

 尹錫悦大統領は大統領選挙運動の期間中、北朝鮮のミサイル発射に対応し、THAAD(高高度防衛ミサイル)の追加配備を公約していた。

 今回、王岐山国家副主席が訪韓した目的の一つは、尹錫悦大統領をけん制することである。

 表向きには大統領就任式出席のためであり、就任祝賀という儀礼的な側面が強いはずである。しかし、王岐山国家副主席は尹錫悦大統領との初めての会談で、中韓間の機微に触れる問題を持ち出した。王岐山国家副主席は、朝鮮半島問題について「中国との連携を強化し、敏感な問題を適切に処理すべきだ」とした上で、「韓国と北朝鮮が和解に向けた協力を進めることを支持している」と強調した。

 これに対し尹錫悦大統領は、北朝鮮の核開発が朝鮮半島と北東アジアの平和と安定に支障をきたすとしたうえで、NPT(核拡散防止条約)のシステムを支持する韓国が北朝鮮の核問題の平和的な解決に取り組むのは、中国の利益にも合致すると反論。韓中首脳が最初の出会いから衝突することになった。

王岐山副主席は会談冒頭
記者団の前でTHAAD問題を提起

 THAADの配備問題は中韓間のとげであった。2017年10月31日、康京和(カン・ギョンファ)外相が「THAADを追加配備しない」「米国のミサイル防衛システム(MD)に参加しない」「日米韓軍事同盟はしない」といわゆる「三不」政策を表明したことで、両国間では関係復元に向けて合意したかのようであった。

 ちなみに韓国は「三不」を立場の表明としているが、中国は韓国の公約と言い張っている。

 それにもかかわらず、同年12月、文在寅大統領(当時)が訪中した際、習主席国家主席は首脳会談で「中国のTHAADの立場を再確認し、韓国が今後もこの問題を妥当に処理することを希望する」と明らかにした。さらに李克強首相も「敏感な問題をうまく処理するよう努力しなければならない」と主張した。

 王岐山副主席が尹錫悦大統領の就任を祝う場で「敏感な問題の適切な処理」という当時の表現を使い、しかも記者団が取材している場所であえてくぎを刺した。これは、THAADの追加配備はもちろん、現存するTHAAD にも反対する立場を伝えたものと解釈できる。