これは、2008年のリーマン・ショック後、サステナビリティが重視されるようになった世の中の変化をいち早くとらえ、マーケティングを精神の領域まで押し上げたマーケティング哲学と言えます。日本では、2011年の東日本大震災の経験もあって、大きな共感を得るようになりました。

 ただ、マーケティング3.0は人間性の重視を掲げたもので、この時点ですでに明確になっていたデジタル技術の進歩やインターネットの影響について深く論じてはいませんでした。

図1/5つの世代とマーケティングの進化(『コトラーのマーケティング5.0』63ページより改編)
図1/5つの世代とマーケティングの進化(『コトラーのマーケティング5.0』63ページより改編) 拡大画像表示

 その部分を補い、デジタル・テクノロジーがマーケティングに与える影響に着目して書かれたマーケティング論が2016年に発表された『Marketing 4.0』(邦訳『コトラーのマーケティング4.0 スマートフォン時代の究極法則』、2017年刊)です。「カスタマー・ジャーニー」という言葉に象徴されるように、デジタル時代における顧客行動の変容を捉え、そこに効果的にアプローチする方法を論じています。

 本書『コトラーのマーケティング5.0』では、IoTやAIといったマーケティング4.0発表以降のテクノロジーの進展を踏まえ、4.0では語り尽くせなかった内容を取り上げています。マーケティング3.0と4.0の延長線上にあって、両者を統合したマーケティング論と言えるでしょう。

コトラーの分析、理論、モデルの新しさ

『コトラーのマーケティング5.0』では、前半でジェネレーションギャップ(世代間ギャップ)や社会の二極化、デジタル・ディバイドなど、マーケティング論のベースとなる社会の変化や課題についての分析を行っています。

 たとえばジェネレーションギャップの分析では、最近の話題の中心である1997年から2009年生まれのZ世代までに留まらず、さらにその下、現実にはまだ生まれてない年代をも含む、2010年から2025年生まれのα(アルファ)世代にも言及しています。

 後半ではそうした社会の変化を踏まえ、デジタル・テクノロジーを取り入れた具体的なマーケティングの進化について論じています。