マーケティング5.0を構成する要素として以下の5つ、

・データエコシステムに立脚した「データドリブン・マーケティング」
・予測分析ツールを用いる「予測マーケティング」
・顧客個人や状況に最適化されたやり取りを提供する「コンテクスチュアル・マーケティング」
・チャットボットなどを利用するとともに、そうしたマシンや技術との共生を訴えた「拡張マーケティング」
・市場の変化に迅速に反応する「アジャイル・マーケティング」

 を挙げ、その考え方と適用例が語られています。デジタル・テクノロジーによって利用可能なデータが飛躍的に増加したことが新たなマーケティング手法の進化を支え、それがアジャイル・マーケティングに至る道であるというのが、コトラーの主張です。

図2/マーケティング5.0の5つの構成要素図2/マーケティング5.0の5つの構成要素(『コトラーのマーケティング5.0』35ページより) 拡大画像表示

 今後のマーケティングが目指すべき方向は、デジタル・テクノロジーに頼りきるのではなく、人とテクノロジーが協力し、デジタルとフィジカルを融合させていくことだとしています。その実例として挙げられている、人間とコンピューターが自由にチーム編成して戦うフリースタイルというチェス競技のエピソードは、非常に興味深いものでした。

日本企業はマーケティング5.0を
どのように活用すべきか

 企業にとってデジタルへの投資は避けて通れない道ですが、デジタルは“魔法の杖”ではありません。「何を省力化し、何を効率化するのか」をきちんと考えて行わなければ、投資に見合ったリターンは望めません。

 日本の内閣にデジタル庁ができたように、デジタル化推進のためのセクションを設けることも一つの方法でしょう。重要なのは責任者に誰を置くかで、できれば企業の現場の業務を知悉し、かつITの能力も高い人材がベストですが、なかなか得難いのが現実です。

 また、マーケティング3.0、4.0と同様、『コトラーのマーケティング5.0』も普遍性の高い議論が中心であり、それをどのように企業の実務に落とし込んでいくのかは、それぞれの読者に委ねられています。自社の事業をデジタル化の波に乗せていくためにはどうしたらよいのか。そのためのヒントを本書から受け取っていただければ幸いです。