田原総一朗が徹底的に「一次情報」にこだわるのはなぜか?「教養とは『物事を多面的に見る力』のことだ」 Photo by Teppei Hori

これまで膨大な数の文化人や芸術家に取材をしてきたジャーナリスト・田原総一朗氏。今回、田原氏に「今の時代に必要なスキル」について聞いた。そこには人生を豊かにするための秘訣があった。(聞き手・構成/ダイヤモンド社編集委員 長谷川幸光)

物事を多面的に見るためには
「一次情報」が大切

田原総一朗田原総一朗(たはら・そういちろう)
1934年、滋賀県生まれ。1960年に早稲田大学卒業後、岩波映画製作所に入社。1964年、東京12チャンネル(現・テレビ東京)に開局とともに入社。1977年にフリーに。テレビ朝日系「朝まで生テレビ!」等でテレビジャーナリズムの新しい地平を拓く。1998年、戦後の放送ジャーナリスト1人を選ぶ「城戸又一賞」受賞。早稲田大学特命教授を歴任(2017年3月まで)、現在は「大隈塾」塾頭を務める。「朝まで生テレビ!」「激論!クロスファイア」の司会をはじめ、テレビ・ラジオの出演多数。近著に『コミュニケーションは正直が9割』(クロスメディア・パブリッシング)、『新L型経済 コロナ後の日本を立て直す』(冨山和彦氏との共著、KADOKAWA)など。 Photo by Teppei Hori

――田原さんは、今の時代にビジネスパーソンに必要なスキルは何だと思いますか?

「物事を多面的に見るスキル」だろう。

 今は情報があふれている。いくらでも情報に触れることができる。しかし、情報の洪水におぼれないためにも、情報をうのみにしないためにも、視野を広くし、物事を多面的に見なければいけない。そしてそのためには「一次情報」に触れることが重要だ。

 私は、第2次世界大戦の時、中学生だった。戦時中と戦後で、教師の言うことやメディアの態度が180度変わるのを目の当たりにしたことで、伝聞による情報を一切、信用できなくなった。耳にする情報と、実際起きていることが、まったく違う。一次情報を得ることがいかに重要かを知ったのだ。

――物事を多面的に見る力を養うには、どうすればよいでしょうか?

 ひとつの情報を、いろいろな角度から見る。何か事件があれば、それぞれの立場と視点から考えてみる。メディアやネット、行政や学者からの情報を、そのままうのみにしない。

 一番いいのは、当事者に直接会って、聞いてみることだ。私は、首相から一議員まで、与党も野党も関係なしに満遍なく会う。原発推進派にも反対派にも会うし、右翼にも左翼にも会う。企業や宗教団体にもどんどん取材する。すると、意外なことがわかることがある。それが一次情報だ。

――人と会うときに心がけていることはありますか?

 会う前に、相手のことをできる限り調べることだ。私も取材や対談を行うときにそうしている。これは、田中角栄へのインタビューの経験が大きかった。

 1980年、『文藝春秋』の依頼で、田中角栄にインタビューをすることになった。田中は、その5年前に金権問題で失脚してから、公の場に顔を出すことはほとんどなかった。取材時間の30分前に田中の自宅兼事務所を訪れ、部屋に通されたのだが、時間になっても田中は現れない。1時間たっても現れない。当時の秘書である早坂茂三に、どういうことか聞いてみると、私が書いた本や記事など大量の資料を、朝から読み込んでいるのだという。

 インタビューをするのは私で、答えるのは田中だ。それなのに、される側が、する側について、とことん調べている。そのような人物にそれまで会ったことがなかった。私はひどく感心し、政治家であれ、財界人であれ、医療関係者であれ、学者であれ、会う相手については、事前にできる限り調べることの大切さを学んだ。相手が「こんなことまで知っているのか」と思わない限り、本音は語ってくれないのだ。

――直接、人と会うことが難しいという人も多いと思います。その場合は、どうすればよいでしょうか?