上海に限らず、中国各地では長らく「ゼロコロナ」政策が続いており、経済に大きな打撃を与えている。6月6日配信の記事『「上海は大好き、でももう疲れた」中国の若者がまた1人、夢を諦め脱出したワケ』でも述べたように、若者の失業率は統計史上最高値を記録。こうした状況の中で、中国を“脱出”しようと試みる人が急増し、特に日本を目指す人が以前より増えているという(『「やっと人間の世界に戻った」と涙…中国で日本移住の人気が急上昇の事情』参照)。

 一方で、上海には約4万人の在留邦人がいる。2カ月にも及ぶまったく自由のない生活を強いられて、「もうたくさんだ、もう耐えられない!」と日本に帰りたがってもおかしくないと思うのだが、筆者の聞くところでは、多くの在留邦人が上海にとどまる決意をしているようだ。

 中国人が必死に自国から離れたがるのとは対照的に、日本人が上海にとどまる理由とは何か。上海在住の日本のビジネスマンや駐在員にZoomなどを通じて聞いてみた。

それでも上海を離れない
日本人が固く決意したワケ

「帰国した日本人の絶対数は分からないが、少なくとも僕の周りに、ロックダウンという理由で帰国した人は1人もいない」

 こう話すのは、上海で主に日系企業向けに人事コンサルタントなどの業務を行う久保田誠さん(40代)。上海在住歴は9年だ。

「会社から派遣されている駐在員の方々とは違い、僕らのように自営業として上海で仕事をしている場合、やはりマーケットを見なければならない。日本と比べると、中国のマーケットは格段に大きい。10年や15年先を考えると日本はお年寄りばかりの国で、その上、競争力のある産業が育たず、どうしても魅力を感じない。

 そのため、日本で夢を見ながらビジネスをするのは極めて難しいと考える。ただ数カ月のロックダウンという理由で、こんな大きなマーケットやこれまでの実績を捨てるわけがない」と、きっぱり言い切った。

「今は、中国の会社が成長し成熟してきている。日本よりやりやすい面もある。海外のことを知らない日本人はいまだに日本を優位に思っており、中国に対して上から目線だが、実はもうとっくに負けている。周りの駐在員の方々から、日本の本社と話が通じないといった愚痴をよく聞く(苦笑)」(久保田さん)

 しかしながら、中国はいまだゼロコロナ政策を続けている中で、将来に不安はないのだろうか。久保田さんは、ビジネスと生活面の不安は別ものだとした上で、懸念していることを教えてくれた。

「生活の面でいうと、さすがに2カ月間もロックダウンされたら、それは日本に帰りたくなるのが正直な気持ちだ。実際、ロックダウン初期に食料の入手が困難な時期があって、日本にいる家族や友人から帰国した方が良いのではと心配された」(久保田さん)