日本にいるよりものびのび
上海での暮らしを選ぶ人たち

 また、筆者の友人であり、上海在住12年、フリーランスでインテリアデザインの仕事をしている高田真由美さん(仮名、40代)は、ロックダウン中、急な激しい腹痛に襲われ、命の危険を感じることがあったという。それでも、彼女は上海にとどまることを決めている。

「私の生活の基盤はもう上海にある。日本に帰ると、仕事を一から探さないといけない。日本に帰国しない理由は何かというよりも、帰国する理由がない」(高田さん)

 そして、次のように続けた。

上海ロックダウン中におすそ分けしてもらったという料理

「もちろん、ロックダウンは大変だったし、限界を感じていた。でも、マンションの中国人の隣人にたくさん助けてもらった。料理をお裾分けしてもらったり、ウィーチャットのグループチャットで、わざわざ翻訳ソフトを使って日本語で情報を共有してくれたりした。

 上海では人間関係がギスギスすることがなく、中国人の大らかな国民性や世話好きな面に引かれているかもしれない。日本には人に迷惑をかけない文化があるが、中国は、人間同士の密度が高い。今回のロックダウンでは特にそう感じた」(高田さん)

 ただ、ダイヤモンド・オンラインのコラムでも何度かお伝えしてきたように、近年の中国では「監視社会化」が進んでいるなど、暮らす上で不安を感じる場面も少なくないはずだ。それについてはどう考えているのだろうか。

「実は日本にいた頃はマイナンバーでさえすごく嫌だと思っていた。ところが、中国に来たらそれどころではない……。いつの間にか、全ての個人情報が管理されることに慣れてしまった。自分でも、本当に同じ人間なのかと不思議で仕方がない」(高田さん)

 長年暮らしているからなのか、個人情報の厳格な管理も気にならなくなったという。

 最後に、駐在員として上海に住んでいる日本人にも話を聞いてみた。筆者の友人で日本大手電機メーカーの駐在員、藤澤卓也さん(仮名、50代)は、14年の北京駐在を経て、昨年上海に赴任した。上海で暮らし続けることについてどう考えているのだろうか。

「駐在員は会社からの人事で、自分で決める権限がないとはいえ、僕も含めて周りの駐在員はかなり上海勤務の恩恵を享受していると感じる。給与の面では、同じ役職で日本国内の勤務より5割は上乗せされるし、家族が一緒の場合は、住居費や教育費なども会社が負担してくれる。仕事も日本にいるより、自由でのびのびしている。

 何よりも、日本人にとって上海は過ごしやすい街だ。僕は北京が長かったが、日本料理店の数や日本の食材や生活用品の調達など、上海の方が格段に良い。日本人には上海は魅力的な街だと思う」(藤澤さん)

 日本人にとって暮らしやすい上海という街の特性も、とどまる理由になっているようだ。