日覺昭廣・東レ社長の「反論文書」で唯一、言及がなかった水処理事業部の不正会計疑惑の深層。実は疑惑の取引に手を染めた社員は日覺社長の腹心で、東レが2019年に警視庁中央警察署に届け出た「印鑑偽造被害」は、日覺社長の保身のための「虚偽告訴」の疑いが浮上している。特集『東レの背信 LEVEL2』(全4回)の最終回は、その深層に迫る。(フリーライター 村上 力)
バングラデシュのテロ事件を機に
東レ内部で繰り広げられた疑惑の全貌
「水処理の問題は今回の記事で初めて詳しく知りました。地方にいる者にはほとんど情報が来ていません。こんな重要な問題が起こっているのに、なぜ、第三者委員会を立ち上げてしっかりと解明しないのですか?」
今年4月の特集記事『東レ日覺社長、岸田首相も共鳴する「公益資本主義経営」標榜の一方で不祥事連発のあきれた実態』を配信した後、東レ社内から筆者の元に届いた手紙の一節である。
東レは2019年2月、前年11月に懲戒解雇した水処理事業部の元社員A氏が有印私文書偽造・同行使罪を犯したとするリリースを公表した。だがその後、この事案に関する東レの説明は一切なく、取材に対しても「捜査上の秘密」を理由に情報開示を拒んでいる。
この事案は16年、バングラデシュで起きたテロ事件に端を発する。
イスラム過激派のテロリストが同年7月1日夜、首都ダッカのレストランを襲撃。「アッラーフ・アクバル(アッラーは偉大なり)」と叫びながら爆弾を投げ、銃を乱射。日本人7人を含む22人が犠牲となった。
この事件で思わぬ余波を受けたのが、実は東レであった。遠い異国の地で起きた事件が、日覺昭廣社長の出身である水処理事業部を舞台とした、不正会計疑惑に発展していく。
まさに「底知れぬ闇」が、事件の深層に広がっているのだ。