投資信託評価会社のモーニングスター社の社長である朝倉智也氏が書いた『低迷相場でも負けない資産運用の新セオリー』(朝日新聞出版社)は大変参考になる。
特に、日本の投資信託の現状を、データに基づいて批判的に説明した第1章は、例えば投信を顧客に薦める可能性があるファイナンシャルプランナーなら、赤線を引きながら、精密に読む価値がある。言い方を換えると、ここに書いてある事実を知らずに、他人に投信についてアドバイスしてはいけないということだ。
朝倉氏は、日本の投信が「残念」だという。それは、特に手数料水準が高く、しかも手数料が年々上がっているからだ。モーニングスター社は、投信に関するデータが豊富だ。国内投信の販売手数料の平均値は、2002年度の2.25%から毎年上がり続けていて、11年度には2.73%に達している。また、同期間の信託報酬を見ても1.37%から1.48%に上昇している(03年度のみ前年度を下回ったが、それでも横ばいだった)。朝倉氏の言う通り、初年度に平均4.21%ものマイナスの状況からスタートするのは、投資家にとって大き過ぎる「重荷」というしかない。
また、日本の投信の「残念」を際立たせるデータとして、米国の投信の販売手数料と信託報酬がいずれも低下傾向にあり、11年度には株式型ファンドの平均で前者が1.0%、後者が0.79%であることを紹介している。つまり、日本の投信投資家は「ボられている」のだ。
同書は、アクティブファンドとインデックスファンドの手数料を比較し、前者がひどく高いこと、さらに、過去10年でアクティブファンドの平均パフォーマンスがTOPIX(東証株価指数)を上回ったことが3回しかないことも示している。さらに、02年にTOPIXを上回ったアクティブファンド32本のうち、その後もTOPIXを上回り続けたファンドが08年にはゼロになったというデータも紹介している。
端的にいって、日本のアクティブファンドを買うことは、経済合理的ではない。本欄で何度も批判したので詳細は割愛するが、現在売れ筋の毎月分配型ファンドがいかに駄目な商品なのかも、わかりやすく説明されている。かくして、日本の投信には、投資していいファンドがほとんどない。
それでは、朝倉氏は、どのような投資を推奨しているのか──。詳しくは、前掲書を読んでほしいし、その上でどうしたらいいかについては、読者自身に考えていただきたいが、「商品」としては、ほぼ海外ETF(上場型投信)のみを薦めている。これを、日本の投信会社や証券会社を顧客とする日本のモーニングスター社の社長が書くのだから、その勇気と良心は賞賛に値する。