独立開業したとしても
今の貯蓄額では厳しい

 今年度(22年度)いっぱいで長年勤めた学習塾の退職を考えているIさん。退職後は、以前の同僚と2人で新たに塾を開くことを考えているのですね。

 さっそく試算を始めたいのですが、独立開業後の状況は「株式会社を予定していて、厚生年金に加入」としか記載がありません。塾の規模やコンセプト、生徒数の目安、月謝などが分かっていれば、独立開業後の収入を予測できるのですが、現時点では未定なのかもしれません。

 このため、Iさんが独立開業した後のキャッシュフローを細かく試算するのは難しいです。ざっくりとした試算結果や、独立開業に際しての注意点などを中心に回答しますが、ご承知おきください。

 Iさんの世帯収入(手取り)は、月間21万円、年間260万円。支出は月間18万円、年間216万円です。仮に独立開業せず、今の塾に残った場合は、差額(年間黒字額)の44万円を毎年の貯蓄に回すことができます。

 新しい塾の開始時期を今からちょうど1年後と仮定すると、予定通り独立開業する場合は、現在保有する金融資産額(50万円)に年間黒字額(44万円)を加えた94万円が立ち上げ時の全財産になります。詳しくは後述しますが、この金額では厳しいというのが正直なところです。

せっかく知ったiDeCoだが
現時点での拠出開始はお勧めできない

 また、相談文に「iDeCoを知り、月2万3000円の拠出を行う予定」と書かれているのも気になります。これまでの月3万円の貯金とは異なり、iDeCoに拠出したお金は60歳まで払い出すことができないからです。

 23年度に独立開業した後、すぐに収入が得られる保証はどこにもありません。その中で、いつでも使うことができる金融資産が減ってしまうのは不安要素だといえます。

 iDeCoを始めるとすると、前述した年間黒字額(44万円)のうち、6割超の約28万円(月間2万3000円×12カ月)を自由に使えなくなってしまうのです。

 そうすると、開業時点で自由に使えるお金は、年間黒字額からiDeCo拠出分を差し引いた16万円(44万円-28万円)と保有資産の50万円を合計した66万円。これでは、何か突発的なことが起きれば資金不足に陥る可能性も否定できません。