実は筆者も、企業で経験を積んだ後に、ファイナンシャルプランナーとして独立開業しています。起業直後は不測の事態に備えて、会社に運転資金を残す(余裕を持たせる)ために3カ月間は無給としました。

 厳しいことを言えば、独立開業するなら、数カ月間無給であっても生活できるくらいの金融資産を保有しておくべきなのです。

 Iさんは退職後すぐの独立開業を目指すようなので、予定通りに進むと失業給付を受けることもできません。だからこそ現預金を厚めに保有しておきたいところです。

 そのため、今すぐのiDeCo開始や、23年度の開業はお勧めできないというのが本音です。Iさんの場合は、現在の塾での勤務を継続した場合、体調を壊す可能性もあるので致し方ないですが、現職に残ったまま新しい講師を雇うなどの打開策は打てないのでしょうか。

「独立開業できますか?」と問われれば、もちろん手続き上はできるでしょう。ただし、独立開業後も安定した生活ができ、資産を積み増すことができるかは、Iさんと元同僚の手腕にかかっています。

本当に独立開業した場合
Iさんはどうなる?

 ここからは、本当に独立開業した場合に、Iさんの生活がどうなるかを可能な範囲で試算します。新しい塾を始めた後も、Iさんの支出額は月間18万円、年間216万円のままだと仮定して話を進めますね。

 この塾を株式会社とし、厚生年金に加入する予定だと記載がありますが、その場合は厚生年金と社会保険料(厚生年金と社会保険はセットで加入)を毎月納付しなければなりません。

 所得税・住民税の支払いも考慮すると、赤字にならないように月間18万円(年間216万円)の手取り収入を得るには、額面での給与が月間22万円(年間260万円)ほど必要です。

 ただ、このままでは老後の資産を作ることができません。額面で月間25万円(年間300万円)ほどの収入を得て、月3万円ほど貯蓄したいところです。

 収入が増えていけばもっと貯蓄に回せる金額も増えるでしょうが、独立開業後の塾経営において、厚生年金と社会保険が「労使折半」での負担となることは押さえておきましょう。

 額面金額の1割強を会社(塾)が負担するので、Iさんの給与が額面300万円ならば、会社はIさんに実質330万円の賃金を払っている扱いになります。

 給与についていろいろと述べましたが、実際は先述の通り、独立開業後の収入がどうなるかはまだ分かりません。

 そこで、いったん試算をストップして、相談文の内容と筆者の経験をもとに、起業における注意点をいくつか述べていきます。