自分自身の弱点をきっかけに職人が働きやすい環境をつくり上げる

――建設現場の足場の架け払い(組み立てと撤去)を専門に手がけているとか?

古澤 戸建て住宅を専門にしているのが特徴です。同業他社の多くはマンションやビルなどの大規模物件を受注したがるのですが、弊社は避けています。

――それはなぜですか?

古澤 「競合との値下げ競争をしたくない」「分野を絞った方が職人が育ちやすい」などの理由もありますが、もともとは、私が高所恐怖症だったからです。

――足場工事の職人さんで、高所が苦手な方は珍しいですよね?

古澤 はい。高給が可能だと聞いて家電販売店から転職し、足場を組む仕事自体は楽しかったのですが、3階より上で作業するのがどうしてもできなくて……。

 仕事を始めてから数カ月で独立した後に、元請けの会社に「戸建て住宅専門でお願いします」と伝えたところ、仕事が回ってこなくなってしまいました。

自分自身の弱点をきっかけに職人が働きやすい環境をつくり上げる代表取締役・古澤一晃氏。1967年生まれ。岐阜県立土岐商業高校経営科卒業後、家電販売店を経て、足場架け払い工事の会社に入社し、93年に独立。97年向陽信和を設立し、代表取締役に就任。

 そこで自らハウスメーカーさんや工務店さんに営業したところ、戸建て住宅のお仕事をたくさん頂くことができまして、戸建て住宅専門でも成り立つようになったのです。

――職人としての大きな弱点が、結果的にプラスに働いたわけですね。

古澤 この一件であらためて思ったのは、足場架け払いの業界は職人にとって働きやすい環境とはいえないことです。仕事を丁寧に教えてもらえることは少ないし、残業代や社会保険料を節約するために右も左もわからないうちから独立を促される。過酷な環境で働いているのに、あまり大事にされない。そこで自分が足場架け払いの会社を営むなら、職人が働きやすい環境をつくろうと考えました。