「クルマは納車した日の性能から良くなることはない」 

 これは、自動車業界の暗黙の常識だった。だが、テスラ車はソフトウエアアップデートで購入後もクルマの性能がアップしていく仕組みを打ち立てた。しかし、PCやスマホ業界ではソフトウエアアップデートで機能や性能を向上させていくことは当たり前に行われてきたことだった。業界の枠や常識を超えてモノを見る姿勢が表れている。

 それは、スペースXでも見られる。

 ファルコンロケットの燃料タンクには、摩擦攪拌(かくはん)接合というタンカーなどで使われていた技術が使われている。摩擦攪拌接合は、作業速度が速く製造コストを抑えられる利点があった。

 高エネルギーの宇宙線を浴びる宇宙ロケットには高信頼性の電子部品が必要とされ、民生品は使えないと考えられていた。そして“宇宙仕様”の電子部品はコストが高かった。

 しかし、スペースXは業界の常識にとらわれることなく、コストのこなれた民生品をいろいろ導入している。たとえば、PCでおなじみのイーサネット(PCで使われているLAN規格)や、FPGA(フィールド・プログラマブル・ゲートアレイ)などだ。FPGAはロジック・デバイスの一種で、エンジニアが現場で書き換えが可能で、カスタムLSIよりコストが安くできる。

 自動車業界も宇宙ロケット業界も歴史と伝統があるゆえに、業界の枠で物事を考えてしまい、枠を超えることを良しとしない風土がある。しかし、業界の枠を超えてモノを見ることで活路が開けることをイーロンは実証している。