とことん極めれば
シンプルな設計になる

 テスラのEVモデル3の内装は極めてシンプルにできている。フロアにシフトレバーがないし、サイドブレーキもない。ハンドルの前にあるはずのスピードメーターもない。

 あるのは15インチの横型タッチスクリーンだけ。これで速度表示もドライビングモードも、エアコン操作も、ヘッドライトの点灯も行ってしまう。

 モデル3のシンプルな設計はECUの数にも表れている。ECUとは電子制御ユニットのことで、作動させる機能ごとに搭載し管理を行う。エンジン用、パワーステアリング用などがあり車体の各部に配置し、分散管理でクルマの円滑な走行を担う。

 従来のガソリン自動車だと60個以上、多ければ100個のECUが組み込まれている。ECUにはおのおの電源が必要で、そのための配線も必要となりECUが多いほど複雑化する。

 しかし、テスラモデル3のECUは5個しかなく、高度な集中管理型を実現していた。

 しかも、自動運転機能は1つのECUにまとめられ、その半導体はテスラが設計し、演算能力は144TOPS(毎秒144兆回)と高性能だ。ちなみに、半導体設計まで自社でやる自動車メーカーはテスラ以外にはない。そして、その先にあるのは完全自動運転であることは言うまでもない。

 モデル3の少ないECUはOTA(オン・ジ・エアー)でも効果的だ。OTAとは無線通信でソフトウエアのアップデートを行う機能のことだ。従来の分散型のECUだと個々にバージョンアップが必要だが、集中管理のモデル3では簡単にできる。

 ECUは少ない方が配線も減らせ、省スペース化もやりやすくコストを下げられる。少ないECU化が、モデル3の3万5000ドル級の価格帯の実現に貢献している。

 スペースXの再利用可能なロケット、ファルコン9の設計もシンプルにできている。

 ファルコン9は2段式ロケットで、打ち上がった1段目が逆再生ビデオのように地上に帰還し、着陸後、再度打ち上げに利用できる。ファルコン9に搭載した宇宙船「クルードラゴン」は国際宇宙ステーションを往復し大気圏に再突入して洋上に着水後も、回収・修理を施して再利用がきる。

 再利用を目指した設計のスペースシャトルと比較すると違いがよくわかる。

 スペースシャトルは、飛行機のような形で三角翼と3基のエンジンを持つオービターと、それを背負うような巨大な外部燃料タンク。この燃料タンクはオービターのエンジンに液体燃料を供給する役目だ。そして、燃料タンクの両脇に固体ロケットブースターが2基装備され、まるで4つの巨大な物体が組み合わさったかの状態で打ち上げる。

 固体ロケットブースターも外部燃料タンクも飛行途中で切り離され、使い捨てにされる。帰還し再利用されるのはオービターだけで、理論上は100回の使用に耐えるとされた。だが、再利用する際には多大な作業が必要となった。さらに飛行中に二度爆発事故を起こしたことを記憶している人は多い。

 しかも、オービターの三角翼は帰還する際、グライダーのように滑空する時だけしか用をなさない。つまり、打ち上げの時は空気抵抗を増やす邪魔な代物でしかない。スペースシャトルの設計は政治的な影響もあって複雑になりすぎたのだった。

 再利用をうたったスペースシャトルだったが、1回の打ち上げコストは約15億ドルもかかったのに対し、スペースXのファルコン9は0.62億ドルで、24分の1のコストで済んだ。

 物理思考で原理を突き詰めれば、シンプルな設計に行き着く。これもイーロンのモノづくりの特徴のひとつだ。