テスラもスペースXも
技術革新とコストダウンを同時進行している

 テスラとスペースXに共通する重要で、しかも他社にはまねできない点を最後に取り上げよう。それは技術革新とコストダウンを同時に行う点だ。

 テスラのEVは、従来のクルマにはない技術革新を遂げてきた。タッチパネルでの操作や、ソフトウエアアップデート機能、新型ECUの搭載などだ。しかも、これらをコストダウンと同時進行で行っていた。その結果は価格に表れている。

 08年に出荷を始めたスポーツカーEVの「ロードスター」は10万ドルを超えていたが、12年に出したEVセダンの「モデルS」は7万ドル級になり、17年に登場した「モデル3」は3万5000ドルになった。

イーロン・マスク「テスラ&スペースX」の隠れた共通点、モノづくりの極意とは本記事の著者、竹内一正氏の近著『イーロン・マスクはスティーブ・ジョブズを超えたのか』(PHPビジネス新書)発売中!

 トヨタの燃料電池車「ミライ」が、いつまでたっても約700万円でもたついているのと大違いだ。

 一方、スペースXのファルコン9は野口聡一宇宙飛行士たちを国際宇宙ステーションへ送ったことで日本でも有名になったが、再利用ができるロケットだ。ロケット再利用はNASAでもできなかった快挙だが、再利用以外の要素でも大幅なコストダウンも実現していた。

 2011年、NASAは伝統的な方法でファルコン9を開発した場合、スペースXの約10倍のコストがかかると報告し、宇宙ロケット業界に衝撃を与えた。これは、ロケット再利用を考えない場合の試算であった。

 2017年にスペースXが再利用ロケットの打ち上げに成功してからは、再利用を繰り返せば繰り返すほどロケットコストは安くなっていく。

 さて、日本企業はどうかというと、まず技術革新を起こすことに注力する。そして、技術革新が成功してからコストダウンのフェーズに移る2ステップ方式が常識だった。自動車でも家電でもそうだった。

 しかし、テスラとスペースXは技術革新と劇的なコストダウンを同時にやってしまう1ステップ方式だ。1ステップ方式はスピード感はあるが、その分リスクも大きい。経営トップにリスクテイクの覚悟がないとできない手法だ。しかし、グローバル競争ではこのスピード感がないと生き残れない。

 リチウムイオン電池に代わるとされる「全固体電池」の開発記事を目にすることが多くあるが、重要な点は全固体電池が開発できたかどうかではない。その量産コストがいくらになるかだ。そろそろマスコミもその点に焦点を当てるべきだ。さもなければ、すぐに中韓企業に追いつき追い越され、日本企業は再び「三日天下」で終わってしまう。

(経営コンサルタント 竹内一正)