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インキュベーションの虚と実

起業家教育の旗手スティーブ・ブランク氏に学ぶ
シリコンバレーの経験を集約した経営・教育ツール

本荘修二 [新事業コンサルタント]
【第19回】 2013年1月21日
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 ビジネスモデルといってもスタートアップによって、その言い方、表現の仕方はまちまちだ。事業特性により、最適のビジネスモデルの示し方は異なる。

 しかし、それがあいまいだったり、人により受け取り方が異なっていたりもする。それを、共通のシンプルな枠組みに落とし込むことで、皆に分かりやすく、かつ議論しやすくなる。

 起業家にとっては、この形式で書き出すことで、考えの整理になる。そして、チームメンバーならびに外部の人とも議論をするベースとなる。だから、次のパートの顧客開発モデルによる仮説の検証がやりやすくなる。

顧客からインサイトを得る
「顧客開発モデル」

 パート2の顧客開発については、ブランク氏の実際の経験を基に話してくれた。リアリティがあり説得される言葉だ。

*  *

 ピボットしないで済むのが理想だが、そんな完全なものは最初からできない。顧客開発は論理的、科学的にデータを得る。そして、データを深く掘って、インサイトを引き出す。二ヵ月程して、突然インサイトがひらめくかもしれない。

 私はかつて、グラフィックボードなどを扱うベンチャー企業のマーケティング担当になったことがある。着任してすぐにユーザー登録カードを見たいと言うと、それまで埋もれて誰も見ていなかったカードが4万枚も出てきた。

 そこから300枚を抜き出して、自ら電話をした。すると顧客のことが分かってきた。典型的なユーザーは、アプリ4つを使い、3つの雑誌を読み、年に2回展示会に行く、といった具合に。そして、製品に求めることはパフォーマンスが全てで、価格は問わないということも。あとは実行するだけだった。

 毎週顧客と話すことだ。10~15社の顧客と、メールやスカイプじゃなくて、できるだけフェイス・トゥ・フェイスで。そこから顧客のフィードバックをもらい、さらにインサイトを得ることを、繰り返すことだ。

*  *

 顧客開発モデルは、仮説の記述→仮説の検証と洗練→製品コンセプトの検証と洗練→確認のサイクルを回していくことだ。

第五回で、起業家は顧客/ユーザーのことを意外なほど分かっていないことを指摘したが、同じ過ちは繰り返されている。よかれと思って開発したものが的外れという悪しきサイクルは珍しくない。これには三つの点に気をつけたい。

 まず、仮説をちゃんと書き出すこと。意外とこれができていない。あいまいになっていたり、整理されていなかったりすることが多い。

 次に、自分は分かっていると思わず、白紙の気持ちで顧客と接触することだ。顧客を知るには、対話だけでなく、製品を使っているシーンの観察など工夫もするべきだ。

 そして、インサイトを得ることだ。バカ正直に顧客に質問して得られた回答に従っても、よいプロダクトはできない。マクドナルドの顧客に欲しいメニューを聞くとヘルシーなものという回答が多いというが、クオーターパウンダーやBig Americaシリーズのようなガッツリしたメニューが実際には売れる。顧客の声や様々なリアクション、そしてデータから、意味を読み取り、その上で知恵とイマジネーションを使ってインサイトを引き出すのだ。

*  *

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本荘修二

新事業を中心に、日米の大企業・ベンチャー・投資家等のアドバイザーを務める。多摩大学(MBA)客員教授。Net Service Ventures、500 Startups、Founder Institute、始動Next Innovator、福岡県他の起業家メンター。BCG東京、米CSC、CSK/セガ・グループ大川会長付、投資育成会社General Atlantic日本代表などを経て、現在に至る。「エコシステム・マーケティング」など著書多数。訳書に『ザッポス伝説』(ダイヤモンド社))、連載に「インキュベーションの虚と実」「垣根を超える力」などがある。


インキュベーションの虚と実

今、アメリカでは“スタートアップ”と呼ばれる、ベンチャー企業が次々と生まれている。なぜなら、そうした勢いある起業家たちを育てる土壌が整っており、インキュベーターも多く、なにより、チャレンジを支援する仕組みが存在するからだ。一方の日本はどうなのだろうか。日米のベンチャー界の環境の変化や最新のトレンドについて、25年にわたってベンチャー界に身を置いてきた本荘修二氏が解説する。また日本でベンチャーが育ちにくいと言われる背景を明らかにし、改善するための処方箋も提示する。

「インキュベーションの虚と実」

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