1993年版にはあったのに… “高度な自治”の内容が消される

 中国政府が台湾問題に対して発表した初めての白書が、1993年版の「台湾問題と中国の統一」である。

「平和的統一と一国二制度は中国の特色ある社会主義を構築するための理論と実践だ」と位置付け、「一国二制度」の下での台湾における高度な自治、すなわち「台湾特別行政区」構想を打ち出していた。

 2022年版でもこれを引き継いでいるが、明らかに「自治」の度合いは薄められている。

 最新の「白書」では「台湾が平和的に統一された後、法律に従って高度な自主性を備えた、祖国とは異なる社会システムを実施することができる」としつつ、「『二制度』は『一国』に従属するものである」という説明を辞さない。1993年版にあった「台湾における行政権、立法権、独立した司法権と最終的な裁定権を有し、党、政府、軍事、経済、財政などを自ら管理、独自の軍隊を持ち、本土は軍隊や行政要員を台湾に派遣しない」という一文が2022年版ではバッサリ削除されているのだ。

 代わりに、「統合的発展」が強調されていた。台湾同胞の正当な権益や利益を保護し、福利を満たし、平等な待遇を与えるというものだ。

 もっとも、台湾を中国に統合するのは難しいことではない。前出の台湾の専門家が推測するのが、「大陸に進出する台湾企業に優遇政策を与える、中華人民共和国のパスポートを取得した台湾同胞に経済的恩恵を与える、新台湾ドルを一対一のレートで人民元に交換できるようにする」などの現実的な“取り込み作戦”だ。経済水準を中国にすでに超えられてしまった台湾にとって、一対一という破格の交換比率は、保有資産が増加することを意味する。

 2022年版にある、「『台湾住民大陸往来通行証』を発行し、『居住許可証』を発行する」のくだりからは、台湾住民が本土への往来や移住をしやすくする環境づくりが進められていることが見て取れる。また、福建省では「両岸統合モデル地区」を建設するという。大橋や道路を開通させるなどのインフラ統合や、エネルギーなど資源供給で統合を目指すシナリオだ。

 香港では「粤港澳大湾区発展計画(広東・香港・マカオベイエリア発展計画)」の下で、大陸と香港の間に橋が架かり、また香港・マカオの市民には内地に進出する機会が与えられたが、こうした“一体化計画”は台湾でも応用する腹積もりのようだ。

 台北市の住民の一人は次のように話していた。

「中国と台湾の力関係は“ゾウvsネズミ”にも等しい。台湾を中国が統一しようと思えば、武力なしでできる。中国の戦闘機だって米国に見せるための演出にすぎないし、そもそもミサイルなんかに金をかける必要などないのです」