ウクライナ・キエフにある勝利の像Photo:PIXTA

経済発展の阻害要因として挙げられる「人口減少」だが、果たして本当にそうだろうか。ロシア侵攻前のウクライナは「破綻国家」と言われることがあるが、その要因には人口減少がある。だが、ウクライナを含めた東欧諸国の人口と経済発展の関係を見てみると必ずしもそう言い切れない点が浮かび上がってきた。今回はそれを考えてみたい。(名古屋商科大学ビジネススクール教授 原田 泰)

「人口減少」は
本当に経済発展を妨げるか?

 日本では、人口減少がすべての問題の根源のように言われることが多いので、世界におけるそのような言論も肯定的に受け入れられることが多い。しかし、人口が増加し続けることはむしろ大問題でもある。

 もし、例えば中国で人口が増加し続けるのなら、中国人にとっては中国国内は、いくらでも地価が上がり、まともな住宅には住めないということである。それに対して、人口が減少すれば地価が下がる場所も出てくるということだ(もちろん、地域によっては、地価は下がらないだろうが)。幸いなことに、中国の研究者によれば、中国は2032年には人口が減少するという(片山ゆき「中国を待ち受ける‘崖’と‘罠’-反転困難な人口問題」ニッセイ基礎研究所22年6月9日)。人口が増加しない中国であるなら、国内の辺境や世界中に散らばって、国内の少数民族を虐めたり、貧しい国に過大な貸し付けをして身の丈に合わないインフラを造らせるなどして、国威を発揚するのは、さすがにバカらしくなるだろう。上海のどこかにわずかでも土地を持っていたら良かったのに、辺境や海外に行って大損害だったと思う中国人が多くなれば世界は平和になるだろう。

 フランスの統計学者、エマニュエル・トッドは、「ウクライナは(1991年の)独立以来、人口の15%を失い、5200万人から4500万人に激減しました。ロシアの侵攻が始まる前から、まさに『破綻国家』と呼べる状態だったのです。しかも高等教育を受けた労働人口が大量に流出しました。本来は国家建設を担うべき優秀な若者が、より良い人生を求めて国外に出ることを選んだのです」と主張している(エマニュエル・トッド、大野舞『第三次世界大戦はもう始まっている』53ページ、22年、文春新書)。つまり、これも人口減少は諸悪の根源説である。

 しかし、そもそもソ連崩壊後、ほとんどの東欧諸国は、ロシアも含めて人口が減少している。ロシアによる侵攻前からウクライナに汚職がまん延していたのは事実のようだが、破綻国家とは麻薬、武器密輸、人身売買、テロ組織の巣となっている国だ。ウクライナはそんなことにはなっていない。