ロシアへの経済制裁は「効果あり」と言い切れる理由、IMFのデータで判明Photo:PIXTA

ロシアのウクライナに侵攻に対して、西側諸国は経済制裁を課し、武器援助を行っている。しかし、経済制裁が効果を上げていないのではないかという議論もある。IMF(国際通貨基金)をはじめとする各種データから、制裁の効果がどれだけあるかを考えてみたい。(名古屋商科大学ビジネススクール教授 原田 泰)

ロシアへの経済制裁
どれくらい効果があるのか?

 経済制裁には、(1)国際送金ネットワークからの締め出し、(2)ロシアの中央銀行が各国中央銀行に預けている資産の凍結、(3)要人やその関係者の海外にある豪邸やヨットの接収、(4)貿易制限、などがある。(1)~(3)に効果があるのは当然である。送金ネットワークから締め出されれば不便であるし、資産の凍結は戦争に使えるはずのお金を使えなくするものだからである。

 一方、(4)の貿易制限の効果に限度があるのはある意味当然である。なぜならお互いに利益があるからこそ、これまで貿易をしていたわけで、これを制限すれば、当然相互に利益が減少するからだ。

 アメリカのトランプ政権は、中国に課す巨額の関税は中国が負担すると思っていたようだ。もちろん中国も困るのだが、関税とは基本的には輸入する国の国民が負担するものというのが経済学の基本的理解だ。だから、バイデン政権が中国への高関税を考え直そうとしているのだ(「バイデン政権、中国への制裁関税撤廃を検討か 1.3兆円分」毎日新聞2022年7月6日)。

 制裁する国も損害を被るのだから、制裁に参加しない国、及び腰の国、途中でこっそり裏切る国も出てきてしまう。国連総会緊急特別会合は2022年3月2日、ロシアによるウクライナ侵攻を非難する決議を、193カ国中、賛成141カ国、反対5カ国、棄権35カ国で可決した。反対はロシア、ベラルーシ、北朝鮮、エリトリア、シリア、棄権は中国やインドなどだった。非難決議に賛成したのは141カ国だが、実際に輸出規制に参加しているのは37カ国にすぎない(「米主導の対ロシア輸出規制、37カ国に スイスなども参加」日本経済新聞2022年4月9日)。

 また、インドが、ロシア産原油を石油製品に精製して輸出する「オイルロンダリング(原油洗浄)」に関与しているとの疑惑もある。制裁で行き場を失ったロシア原油を購入し、ガソリンなどに精製して一部を欧米に輸出しているというのだ。疑惑の間接証拠として、ロシア産原油の対インド輸出の急増がある(「ロシア原油に『洗浄』疑惑」日本経済新聞2022年7月14日)。

 制裁の効果には当然に限界があるだろう。ロシアが自国の経済指標を明らかにしてくれはしないのだから、どれだけ効果があるかは分からない。次ページでは、いくつかの間接証拠から、制裁効果がどれだけあるかを考えてみたい。