一人暮らしの40〜50代男性が今からすべきこと

 さて、このように健康長寿の世界で注目を集める「ポジティブサイコロジー」というものを知れば、先ほどの「都会で孤独に生きる男」は「肥満のヘビースモーカー」と同じくらい早死のリスクが高いという話も納得ではないか。

 辻教授によれば、これまでの調査でも、前向きに生きていたり、友人が多くて社会と繋がりを持っていたりする人では、死亡リスクも低いということがわかっている。また、なぜ「都会」なのかというと、「田舎の一人暮らし」よりも孤独を感じやすいからだという。

「孤独というのは相対的なものです。田舎はそもそも人の数自体が少ないですし、都会よりも地域コミニティのつながりも残っていることも多い。一方、東京のように大都市は、人がたくさんあふれているのに、地域のつながりも希薄になっている。そんな中で、ひとりぼっちで生きている人は田舎よりさらに孤独を感じるのです」(辻教授)

 これには、大きくうなずく人も多いのではないか。

 では、「これまさしくオレのことじゃないか、このままじゃ早死にしちゃうの?」とショックを受けている、一人暮らしの40〜50代男性はどうすべきか。辻教授はリタイアを見据えて、「仕事以外の人間関係」を築くことが大切だという。

「会社人間として仕事を一生懸命やることは決して悪いことではありませんが、会社をやめるとそこで人間関係がなくなってしまうことが問題です。名刺や肩書きもなくなるし、仕事で行っていたゴルフ仲間もいなくなってしまう。とはいえ、65歳すぎて慌てて新しい人間関係をつくるのは大変ですから、若いうちから仕事以外の人と繋がっていく。趣味でもいいし、ボランティアみたいなことでもいいですし、ネットやSNS上で繋がることでもいいんです」(辻教授)

 確かに、40〜50代という働き盛りの男性諸氏の多くには、かなり耳の痛い話ではないか。飲み会やゴルフなどで日々付き合っているのはほとんど「仕事」のつながりだ。もしそれがすべてなくなった時、あなたは「孤独な男」になっていないだろうか。

 辻教授は、これから日本人の健康長寿を考えていくうえで、喫煙率の減少や高血圧など生活習慣病対策と並んで、「人との繋がり」は非常に大きなウエイトを占めていく事になるだろう、と予見する。

「そこで重要になるのは、地域コミュニティです。今の日本社会は若い人も高齢者も互いに孤立をしていて損をしています。地域全体で連携をすることで孤立化を防いで、それが健康長寿にも繋がる。

 例えば、共働きで育児が大変な夫婦や、育児うつになっているようなお母さんを、地域内のお年寄りが手助けをする。あるいは学校の先生方も忙し過ぎますので、ITや英語などが得意なシニアの方々に手伝ってもらえばいい。現役世代からすれば大助かりですし、シニア側からしても、社会貢献ができて生き甲斐も感じられるので健康長寿につながります」(辻教授)

 地域社会が健康にならなければ、そこで暮らしている個人が健康になるわけがないというわけだ。

 健康のために「血圧」や「肥満」だけを気にしていればいいというのは、もうとっくに時代遅れなのかもしれない。

(ノンフィクションライター 窪田順生)