壁を超えたら人生で一番幸せな20年が待っていると説く『80歳の壁』が話題になっている今、ぜひ参考にしたいのが、元会社員で『島耕作』シリーズや『黄昏流星群』など数々のヒット作で悲喜こもごもの人生模様を描いてきた漫画家・弘兼憲史氏の著書『死ぬまで上機嫌。』(ダイヤモンド社)だ。弘兼氏のさまざまな経験・知見をもとに、死ぬまで上機嫌に人生を謳歌するコツを説いている。現役世代も、いずれ訪れる70代、80代を見据えて生きることは有益だ。コロナ禍で「いつ死んでもおかしくない」という状況を目の当たりにして、どのように「今を生きる」かは、世代を問わず、誰にとっても大事な課題なのだ。人生には悩みもあれば、不満もあるが、それでも人生を楽しむには“考え方のコツ”が要る。『死ぬまで上機嫌。』には、そのヒントが満載だ。
※本稿は、『死ぬまで上機嫌。』より一部を抜粋・編集したものです。

【漫画家・弘兼憲史が教える】老後の「暇」と「孤独」が極上の時間に変わるとっておきの方法作:弘兼憲史 「その日まで、いつもニコニコ、従わず」

一人旅で「一人力」を磨く

「一人暮らしを妄想するのにも限界がある」「もっと別のやり方で一人の時間を満喫したい」――そういう人に打ってつけの過ごし方があります。ちょっとした一人旅です。日帰りでも一泊でもいいです。行き先や宿泊先などを決めないまま、ふらりと出かけるのです。行きあたりばったりの旅ですから、家族には行き先は伝えません(伝えようがありませんね)。

もっとも、家族を心配させるのはよくないので、出かけることは伝え、緊急時にはスマホ(携帯電話)で連絡を取れるようにしておきます。旅に先立って、まずはおおまかな行き先を決めます。なるべくプライベートの旅行でも会社の出張でも訪れたことのないところがいいです。

テレビでやっている「ダーツの旅」みたいに、目をつぶって地図を指した場所を目指すのも一興です。長年住んでいる地元でさえも、訪れたことのないポイントがたくさんあるものです。私だったら、誰もが知る観光地ではなく、名前すら聞いたことのない場所を選びます。観光地の場合、行ったことがなくても、どんな場所なのかはだいたい想像がついてしまいます。それよりも、まったく想像がつかない土地のほうが新鮮な発見にあふれているはずです。

見知らぬ土地の日常を味わう

行き先が決まっても、ガイドブックや地図などは準備しません。これといった目的も予備知識もないまま旅をスタートさせるのです。あっという間に移動できる新幹線や飛行機を使うより、あえて路線バスやローカル鉄道でのんびりと移動します。車窓からぼんやりと景色が流れる様を見ているだけで、旅情がそそられます。

とりわけ僕が好きなのは、なんの変哲もない民家や田畑の風景です。人里離れた土地にポツンと立つ古い一軒家や、くたびれた軽トラックがノロノロと農道を走っている風景を眺めているだけで、「こういうところで地に足をつけて暮らす人生もあるんだなあ」などと想像して感じ入ります。電車の中で、地元のお年寄りたちが交わす方言が濃くなっていくにつれ、「よその土地にやってきたんだ」という実感も増したりします。

例えば、朝からローカル電車を乗り継いで、日が暮れた頃に適当な駅で下車。とりあえず町を散策します。美味しい一杯目にありつけそうな手頃な居酒屋、あるいは定食屋を探すのです。間違っても、ここまで来てグルメサイトの検索なんてことは、やめておきましょう。己の嗅覚にすべてをかけてください(笑)。

心が暖かくなる瞬間

実際に目の当たりにした外観の佇まい、入口からうっすら見える店内の雰囲気……。そういった自分の感覚をもとに、自分の経験を駆使して相性のよさそうな店を選びます。地元民に人気の店も悪くないのですが、しみじみした旅情を味わうなら、落ち着いた雰囲気の店がふさわしいかもしれません。一泊するなら、その前に宿泊先の目星もつけておきましょう。

翌日、明るくなってから改めて町歩きを楽しみます。当たり前のように駅に向かうビジネスパーソンや、ヘルメット姿で自転車登校をしている中学生を見ているだけでも、そこにかけがえのない日常があることに気づき、心が温かいもので満ちてくる気がします。

新型コロナの問題もあり、おいそれと旅行できない状態も続きましたが、また以前のように自由に旅行できる日が続くことを願ってやみません。

※本稿は、『死ぬまで上機嫌。』(ダイヤモンド社)より一部を抜粋・編集したものです。