AR分野におけるソニーと本邦企業のチャンス

 ソニーは、ウェブ3.0に欠かせないAR技術など最先端分野での勝機を狙っている。具体的には、ゲームや音響などの既存技術とARを新しく結合させようと強化している。その一つの成果として、「ToF(Time of Flight)AR」と呼ばれるソフトウエアを公開した。ToF ARによって、スマホ1台でバーチャル・ユーチューバー=Vチューバーに変身できる。ARの世界は一段と身近になるだろう。

 ToF ARアプリは、まず、スマホに搭載されたLiDAR(ライダー)などのセンサによって対象物体までの距離や、その形状を計測する。その上で、独自の人工知能(AI)処理によって、体の滑らかな動きやハンドジェスチャーなどをデジタル画像として表現する。画像処理半導体などの製造技術向上と、AIなどのソフトウエア開発力の強化が、ソニーのAR技術の革新を支えている。

 ソニーのAR事業の強化には、わが国産業界の一部が持つ比較優位性が大きな影響を与えていると考えられる。ソニーは現在、台湾積体電路製造(TSMC)やデンソーと合弁で、熊本県に半導体工場を建設している。

 回路線幅5ナノメートルの最先端のチップ生産などにおいて、わが国産業界の競争力は失われた。しかし、画像処理半導体の多くは、最先端ではなく、汎用型の生産設備で製造される。その分野でわが国は競争力を保っている。加えて、超高純度の半導体部材や半導体の製造装置などの分野でも本邦企業の競争力は高い。

 特に、シリコンウエハーなどの半導体部材に関しては、分解してその構造を模倣することは難しい。微細かつ精緻なモノづくりの力を磨き上げることで、本邦企業は加速化する世界経済のデジタル化に対応し、より効率的に収益を獲得することができるだろう。

 このように、ソニーのAR関連技術はわが国産業界が磨いてきたモノづくりの力の向上に支えられている部分が大きいと考えられる。そうした力にさらなる磨きをかけることによって、わが国産業界がARなど新しい発想の実現に不可欠な半導体関連の部材や製造装置の需要を取り込み、成長を加速することは可能なはずだ。