ソフトウエアの創出力強化に不可欠な労働市場改革

 モノづくりの力に加えてわが国は、ソフトウエア創出力を強化しなければならない。そのためには、個々の企業の事業運営体制の改革に加えて、政府による構造改革が必要だ。特に、労働市場の改革は急務だ。

 1990年代以降、経済のグローバル化により国境のハードルは低下し、世界全体で生産コストは低下した。アップルやエヌビディアは、チップの設計開発などに集中する一方、韓国や台湾の企業は、米国企業が設計したチップや最終製品の生産を受託し、国際分業が加速した。他方で、バブル崩壊の負の影響も重なり、わが国では終身雇用・年功序列など過去の価値観の温存が重視された。その結果、世界的に見てわが国のデジタル後進国ぶりは鮮明だ。

 ウェブ3.0時代の本格到来を見据え、世界各国で新しい発想の実現に取り組む企業は急増している。そうした状況下、ソニーは社員に対して個々人の価値観や発想を重視し、それを成果主義に落とし込むことによってハードとソフトの両面で成長を加速しようとしている。

 半導体製造装置分野などでも、報酬によって社員の成果に応える企業が増えている。これは、日本経済の実力向上に決定的に重要だ。政府は、労働市場の構造改革を進めて、ミクロレベルでの変革をより強力にサポートするべきだ。

 具体的には、事業運営体制の変革に必要な解雇を行いやすくなるよう規制を緩和する。その一方で、新しい理論の習得などをサポートするために学び直しの制度を強化する。そうした改革を徹底かつスピーディーに進めなければならない。

 このように考えると、ウェブ3.0によってわが国経済の環境は大きく変化する可能性がある。自己変革を加速し、先端分野での取り組みを強化する企業が増えれば、ウェブ3.0はわが国経済が産業構造の転換を進め、成長を実現する起爆剤になり得る。それとは反対に、変化への対応が遅れれば、デジタル化の遅れはさらに深刻化する恐れが高い。