自賠責もうけのからくり

損保業界を揺るがす
ビッグモーターの不正な保険金請求

 ビッグモーターショック――。

「買取台数5年連続日本一!」と、男性俳優が声を張り上げるテレビコマーシャルで知られる大手中古車販売店、ビッグモーター。そのビッグモーターによる保険金の不正請求問題を巡り、損害保険業界が揺れている。

 ビッグモーターといえば、中古車の販売や買い取りだけでなく、車検や自動車の修理、板金に加え、自動車保険を取り扱う保険代理店でもある。その収入保険料は、200億円規模にもなるという。

 その規模故に、東京海上日動火災保険や損害保険ジャパン、三井住友海上火災保険、あいおいニッセイ同和損害保険と行った大手損保社はみな乗り合っているが、とりわけ代理申請会社である損保ジャパンのシェアが圧倒的に高く、その収入保険料は120億円に上るという。

 そんなビッグモーターにおいて、同社社員の内部告発により保険金の不正請求疑惑が発生。損保各社はサンプリング調査を行い、その後ビッグモーターが自主調査した結果、複数の工場において不正な請求を行っていた事実が明らかとなった。

 火災保険の不正請求が損保業界全体の問題となっているさなか、一代理店のこととはいえ、組織的な不正請求が疑われる事案は見過ごせない。

 そこで、損保各社は足並みを揃えて調査に踏み出したが、途中で足並みが乱れる事態となったのだ。ビッグモーターが反省し、再発防止策を徹底すると約束したとして、いち早く損保ジャパンが追加調査せずに取引を再開。併せて順次、事故車の入庫紹介を再開するとしたからだ。

 その結果、ビッグモーターが各社に分散していた自賠責保険は、追加調査をすべきとした東京海上や三井住友海上への取り扱いをストップし、損保ジャパンに集中する事態となった。

損害保険ジャパンビッグモーターショックで揺れる損害保険ジャパン Photo by Akio Fujita

 ところが、だ。8月下旬に、週刊誌が一連の不可解な事案をすっぱ抜いて以降、損保ジャパンの態度は急変していく。9月15日の損保協会長会見(今期の協会長は損保ジャパンの白川儀一社長)の直前に、再開した取引を再び停止したのだ。なぜ再び停止したのかについて、報道陣から突っ込まれた協会長会見はざわつき、白川社長が沈黙する場面もあったという。

 次ページ以降では、一連の経緯を時系列で振り返るとともに、ビッグモーターのようなモーター系代理店と損保会社の蜜月関係について深掘りしていく。加えて、「ノーロス・ノープロフィット」であるはずの自賠責保険を、なぜ損保は執拗に欲しがるのか。損保の社員も知らない、自賠責のもうけのからくりにも焦点を当てることで、両者の関係を明らかにしていこう。