変化を嗅ぎ取ることのできる企業と
そうでない企業の違い

【アサヒ×資生堂×日清】変化を嗅ぎ取ることのできる企業とできない企業の違いは?HR・ファイナンス・戦略のエキスパートが語る横山之雄(よこやま・ゆきお)
日清食品ホールディングス 取締役・CSO(グループ経営戦略責任者) 兼 常務執行役員。1979年、富士銀行(現・みずほ銀行)入行、海外勤務、人事、営業企画、広報業 務を経て、麹町支店長、渋谷支店長、執行役員を歴任。2008年、日清食品(現・ 日清食品ホールディングス)に入社。執行役員財務部長、2010年1月、執行役員・CFO、同年6月に取締役・CFOに就任。2016年より常務執行役員を兼務、2021年に現職の取締役・CSO 兼 常務執行役員に就任。

横山 インターネットを介してあらゆる情報にアクセスできるようになった半面、サイバーテロという脅威が増しているのはその典型例でしょう。同じように、サプライチェーンがグローバルに張り巡らされたために、感染症の拡大や紛争勃発によって物の流れが止まり、あちこちの港湾で貨物線が停留するといったことが起きています。

 こうした、昨日までの常識が一瞬でくつがえされるような事態に、経営としてどう対処するかといえば、変化の予兆をいち早く嗅ぎ取り、スピーディーかつしなやかに対応していくことです。

 これは地政学的な問題に限った話ではありません。最近、特に感じるのが、人々の価値観の変化や行動変容です。若い世代がわれわれのような食品メーカーに求める価値も大きく転換していて、「安くておいしい」だけではない価値を、強く求めるようになっています。

 これに応えるためには、連続的な成長ではなく、サナギが蝶になるような変態や、変革を遂げていかなければならないと思っています。

日置 皆さんの話を聞いていてあらためて思うのは、世界中で起きている変化の予兆を、いかに嗅ぎ取り、それをどう意味づけるかが、グローバル経営にとって非常に重要であるということです。

 よく「外資はトップダウンだから経営のスピードが速い」といわれますが、実際には、いち早く変化に気づいて準備を進め、よそが気づいたころにはもう、アクションを打ち出している、というパターンが結構ありますよね。いち早く、変化を嗅ぎ取ることのできる企業とそうでない企業、こうした違いは、どこから生まれると思いますか?

【アサヒ×資生堂×日清】変化を嗅ぎ取ることのできる企業とできない企業の違いは?HR・ファイナンス・戦略のエキスパートが語る横田貴之(よこた・たかゆき)
資生堂 取締役 兼 執行役員 兼 CFO(最高財務責任者)。1996年、住友商事に入社。機械電機事業部門の経理担当やインド駐在のファイナンス・マネージャー等を経て、2001年にダウ・ケミカル日本へ入社。2005年、GE東芝シリコーン(現・モメンティブ・パフォーマンス・マテリアルズ・ジャパン)入社。2007年にユニリーバ・ジャパンへ入社し、2012年、ユニリーバ・ジャパン・ホールディングス 代表取締役 ヴァイスプレジデント ファイナンス ジャパン/コリアに就任。2019年、資生堂入社。HQファイナンス部長、財務経理部長等を経て、2021年より現職。

横田 コーポレート部門(※会社全体の事業活動を管理する部門の総称)の性質もあると思いますが、同時に、ローカル、あるいは現場がチャレンジしているか、という部分は大きいと思います。変化を肌で感じる部分は当然ありますから。

 ローカルの声をすぐに取り込んで、マーケティングや製品開発に生かしていくサイクルを生むのがコーポレート部門の仕事であり、そのためには現場へのエンパワーメントが不可欠です。

谷村 その際、「一様ではない」ということがやはり重要ですよね。DE&I(ダイバーシティ、エクイティ&インクルージョン)で多様な意見を取り入れることで、それまで気づけなかったことに気づけるようになるはずですが、これを組織のケイパビリティとして持っているかどうかが、「変化を嗅ぎ取る力」を左右すると思います。

 ただし、その土台となるのが、データをしっかり取って活用するデータマネジメントであり、この仕組みがなければ始まりません。

横山 私も同感で、特にデータアナリティクスの部分、つまり、膨大な情報の中から、何に注目して「変化の予兆」をピックアップするかが、カギを握っていると考えています。

 それと同時に、「変化のレイヤー」を理解することも欠かせません。「アリの目」で地場のマーケットで何が起こっているかを拾い上げ、ローカライズも行う。一方では「鳥の目」でもって、制度や仕組みを最適化していく。このように「変化のレイヤー」を多角的に捉えることが重要ではないでしょうか。